リバースストーリー2−2【些細な二人きりの旅2】



◇些細な二人きりの旅2◇


 外に出ると、ザワザワと町の人たちが。

 何かを警戒するように周囲を見渡す男性たち、怖がる女性たち。


「なんだあれ、どうしたんだ?」


『――どうやら近辺に不死の兵士が現れたようです』


 俺は眉間にしわを寄せた。

 それはもう嫌そうに。だって折角の休暇を……はぁ〜〜〜。

 心の中で盛大なため息を消化し、気を取り直す。


「ウィズ、不死の兵士の距離は」


『およそ一kmキロといった場所に。数は十二』


 多くはないな。

 ミーティアが俺の服を選んでくれているうちに片付けるぞ。


『了解』


 店の中を一度確認。

 ミーティアは必死に俺の服を見繕みつくろってくれている。

 絶対に、今回の俺たちの旅行の邪魔はさせん……絶対だ。


『……下心丸見えですよ、ミオ』


「るせっ!!行くぞ――【転移てんい】!!」


 ウィズが余計なことを言い出す前に、ミーティアの買い物が終わる前に終わらせる。


 シュン――


「……っと、居たな」


 【転移てんい】してきた瞬間に身を隠す。丁度いい大木があった。

 場所は森だ、。ここに来るまでに通った場所なんだが、だから【転移てんい】は出来たのだが……


「おいおい、さっき通った時は不死の兵士の反応はなかったよな?」


『その通りで』


 湧いて出ることってあんのか?魔物と同じで【魔力溜まりゾーン】から?


『流石にそれはありません。潜伏していたのでしょう』


 だよな。

 それにしてもこの不死の兵士たち、何が目的なんだ?

 指揮をしている奴の姿もないし、フラフラと行ったり来たり、本当にゾンビのようだ。


「早急にケリを……――ん!?」


 【無限むげん】でやってしまおうかと思った瞬間。

 小さな人影が現れた。


「……な!子供だと!?」


 不死の兵士の前に立ち、背負った得物えものを取る。

 まさか戦う気なのか……不死の兵士と。


『――接敵』


「見りゃ分かるっ!加勢するぞ!――って、はぁ?」


 そう意気込んだ俺だが、大木から出た瞬間に動きを止める。

 何故なら、その小さな姿が、巨大な大剣をブンブンと振り回して、不死の兵士を両断し始めたからだ。


 ドズン!!グヂャ!!ボギッ!!


 到底肉を断つ音ではないが、その威力は凄まじいの一言。

 そして呆気なく、不死の兵士十二体は全滅した。


「……マジかよ、もしかして転生者か?」


『いえ、その反応はありません。この世界の原住民で間違いはないかと』


 原住民て。それを言ったら転生者も現地で生まれてるっての。


「帰るのか……まさかこの町の子なのか。それとも冒険者……」


 そんな考えをしているうちに、その子……小さな女の子は姿を消した。


「行っちまったか。俺も……戻ろう、そうしよう」


 【転移てんい】で町に戻ると、ミーティアさんがご立腹。


「――もう!一人でいなくならないでよぉぉ!」


 ボグシ!と胸にダイブ。

 ミーティアさん?【オリジン・オーブ】のバフで案外パワー強いのよ?


「おふっ……ご、ごめんごめん」


「どこ行ってたの……?」


 上目遣いで俺を見上げるその仕草……マジでヤバイ、可愛い、軽く死ねる。


「ちょっと町外れに魔物がね。でも、俺の出番はなかったよ……なんか小さな女の子がさ、めっちゃ強くて」


「……女の子ぉ?」


 い、いや、他意はないんだ。

 本当に女の子だし、話しても接触してもないから。


「冒険者かなって。でもめっちゃ若かったな……」


「へぇー。年下が好きなの?」


「……そういう意味じゃないです」


「ふふっ、分かってるけどっ♪」


 焼きもち焼いたフリ……だと?

 俺から離れて、振り向いた瞬間の笑顔と来たら……眩しいんだから。


「そ、それじゃあ、行こうか。目指すは【カレントール】だ」


「うんっ」


 そうして小さな町から出発した俺たち。

 二人分の旅行鞄と携帯食料、たったそれだけだが、立派な旅行と言えよう。




 因みになんだが、旅行気分を味わうために移動は馬車を借りた。

 【カレントール】に行く道中のみで、帰りは【転移てんい】で一瞬で帰る予定。


「あいよ、【カレントール】に到着だ」


「ご苦労様です。これをどうぞ」


「おや、悪いね若奥さん、へへへ……」


 馬車の御者に金……つまりチップを渡すミーティア。

 若奥さんと呼ばれて上機嫌だ。うん、それは俺も嬉しいが。


「それにしてもご両人、こんな戦地によく来る気になったねぇ。ましてや馬車の代金も値上げしてんのに」


「ああ、ちょっと見てみたくてね」


 あの町からの時点で、馬車の代金は支払い済みだ。

 それでもチップを払ってんだから、良客と言えるだろう。

 しかし、戦地か。

 【ステラダ】以外では、この【カレントール】が唯一、徴兵ちょうへいに抗ったと聞く。


「気を付けなよ旦那さん。奥さん綺麗だから、徴兵ちょうへいされたら奥さん可哀想でっせ?」


「どうも、気を付けるよ」


 そう言って、カラカラと車輪を回して帰っていく。

 この情勢でここまで運んでくれてだけでもありがたい。


「うふふ、若奥さんだって」


「そ、そだね」


 めちゃくちゃいい笑顔だ。

 俺は恥ずかしいから、視線を逸しておく。


「さて、【カレントール】に着いた訳だけど……これどうする?」


「うーん、普通に手形を発行……かしら」


 門は閉じている。

 【ステラダ】ほどではないが立派な門だ。

 しかし門番はいないし、手形を発行できそうな場所もない。

 ならいっそ……


「上に飛んで、【転移てんい】で入っちゃおうか」


「え」


 そんな不法侵入罪を犯そうとした俺に、若干引き気味なミーティア。

 しかし、救いの手と言うべきか。


「……あの、入りますか?」


「「!!」」


 背後、真後ろから声を掛けられた。

 いつの間に接近された!?


「――って、君は……」


「??」


 俺たちに声を掛けたのは、さっきの町で不死の兵を両断していた、小さな女の子だった。

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