リバースストーリー【10章〜11章の舞台裏&後日談】

リバースストーリー2−1【些細な二人きりの旅1】



◇些細な二人きりの旅1◇


 これは、俺が因縁と決着を付ける少し前。

 【ステラダ】の住人たちを【アルテア】にスカウトした時の話。


 当時はまだ【アルテア】なんて名前も決まってなく、塔の村だった。

 秋から冬にかけての、俺とミーティア、中々二人の時間が取れなかった俺たち二人だけの、小旅行の話だ。




「――え?今、なんて??」


 素っ頓狂な声を出すミーティア。これ呆れてます。

 しかし俺はめげずに。


「ん、だからさ……これから少し、旅行に行かないか?って」


 いぶかしむような、若干の呆れを孕んだその視線。

 うむ、言わずとも分かってるさ……そんな暇はない。

 でも、そんな中でも安らぎは欲しいのさ。


「そんな目で見ないでくれよ、【ステラダ】からロッドさんやグレンのオッサンが塔の村(当時はまだ【アルテア】と決まっていない)に参加してくれたし、元・【ギルド】職員の方たちも来てくれるしで、スカウトは結構順調だろ?」


「だからって旅行?遊んでいる暇はないんじゃないの?」


 ジト目で俺を見詰めるミーティア。可愛いかよ。


 しかし、ミーティアの言う通り余裕が有りまくる訳では勿論無い。

 スケジュールはカツカツだし、休む暇もなく皆が働いているのも事実だ。

 そんな時だからこそ、思い切って休むのも大事だと俺は思うんだよ。


「そうだけどさ、休暇も必要だろ?今回は……二人だけでな。誰にも邪魔されず、ちょっとだけ遠出を、さ」


 因みに今、俺たちは二人きりだ。

 【ステラダ】でのスカウトが終わり、仲間を増やした直後である。

 だからこそ、普段の激務から開放されて、二人で羽根を伸ばしたい……そんな思いがあってもいいでしょーに。


「う〜ん、でも怒らない?クラウとか、セリスとか。それに、公国組の人たちは目下激戦中でしょう?」


 腕を組んで大きな胸を張る。

 もうレイン姉さん超えたなコレ……すっげ。


「まぁね、でもルーファウスもレイナさんも、俺の助力は要らないって言うし」


「それはミオの力に頼り過ぎちゃいけないって、決まりを持ったからでしょう?サボっていい口実にしては駄目よ……」


 少しだけ悲しそうに俺を諭すミーティア。

 くっ……真面目なんだよなぁ。そこがいいんだが!


「三日だけ!三日だけだから誤差だよ!!俺はティアと二人で……出掛けたいんだよ、見たい場所もあるし、話だってしたい!それにさ、普段俺たちを監視してる誰かさんの目も、今はないだろ?な?お願いっ!」


「む……むぅ……そんな顔をされたら、私だって……こ、断れないじゃないっ!」


 俺の懇願に、唇を尖らせて赤くなる。

 内心を言えば、多分ミーティアだって二人きりの時間が欲しいはずなんだ。

 【コメット商会】は順調だし、塔の村だって人がドンドン増えてる。

 それこそ女王国の人も、公国の人もだ。言わずもがなだが帝国の人もな。


「よし!!じゃあ決まりだ、折角だから女王国内を見てみようぜ。ちょっと噂で、【ステラダ】並みに善戦してる地域があるらしいからさ!」


「あ〜えっと、東の【カレントール】ね。でもいいの?結構な戦闘が行われてるって……そこに旅行だなんて、怒られない?例えばクラウとか」


「……言わなきゃいい」


『――絶対にバレますよ』


 そんなこんなで俺とミーティアの、三日間だけの小旅行が決まったんだ。




 移動は空。

 【極光きょっこう】の虹の上を、【カラドボルグ】をボードに見立てて滑る。

 【紫電しでん】で加速するから、超高速だ。

 【転移てんい】以外での、俺の移動法の定番になりつつあるな。


「――景色!すっっっごいわね〜!」


「だろ!?」


 お姫様抱っこをして、俺の首に腕を回して耳元に叫ぶ。

 風のせいでそうしないと聞こえないし……くすぐったいけど。


「それにすっごく速〜い!馬車での移動が馬鹿らしくなっちゃうわ〜!」


「そーだなー!!」


 それは本当にそうだ。

 本来、女王国東の【カレントール】へ行くには、【ステラダ】から出立して四日はかかる。【豊穣の村アイズレーン】からだったら五日だな。これは塔の村からも変わらない。

 それが、この手法なら数時間で到着するんだからな……


「お!!見えてきたぞティア!」


「ええ、楽しみねっ」


 最初の目的地は、【カレントール】に行く少し前の町。

 立ち寄る理由は買い物。旅行に必要な物の、買い出しだ。


 なんだかんだで、楽しみにしててくれてる。

 それだけで、こんなに嬉しいんだな。




 【ポレスターマ】という小さな町に寄った俺とミーティアは、雑貨屋と服屋を兼ねた店に入った。隣には大衆食堂のような店もあり、小さいながら客が大勢いた。


「……えっと、着替えに鞄に……あとは」


「現地調達じゃ駄目なのか?」


「はぁ……そういうところ、本当にクラウと同じね」


 呆れられたが、そういえばクラウ姉さんもそうだな。


「【無限むげん】で整えられるし、いいんじゃないのか?無理に買わなくても」


「そういう問題じゃないのよ、もうっ」


 そう言ってミーティアはテキパキと購入する物品を選んでいく。

 俺の分まで「これかなぁ?」と見てくれてるし、せめて俺は金を出そう。


「……ん?」


 なんだか外が騒がしいな。

 俺たちが店に入った時は、まぁまぁ静かだったのに。


「ティア、ちょっと外見てくる」


「は〜い」


 旅のコーディネートはセンスのある人に任せるとして、俺はこの旅行を楽しむための情報を集めるとしましょうかね。

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