エピローグ11−9【月日をかけて4】



◇月日をかけて4◇


 【王都カルセダ】から【ステラダ】へ到着し、ミオたちはその静寂に戸惑う。

 その理由は、【ステラダ】が……まるでリードンセルク城のように、廃墟と化していたからだ。


「なんだよこれ……」


「なんということだ。確か、会長やクラウからの連絡によれば……ウィズが残ったらしいな」


「あ、ああ……そのはずです。でも、【感知かんち】にその反応はない」

(ウィズは多分……力を使い果たしたらまた消えたんだろうけど)


「凄まじいな、これほどまでに壊されるとは。だが、人気がない以上長居も必要あるまい。さっさと【アルテア】へ行くぞ」


 ジェイルが淡々と言う。

 しかしそれもそうだと、二人も思う。


「分かった……帰ろう、【アルテア】に」

(ウィズの事も気になるし、報告によればあの赤メッシュも一緒だよな……だけどそれより、俺はミーティアが心配だ)


 クラウから、【ルーマ】を通じて近況を聞いたミオ。

 【ステラダ】であった事柄を、ミオは受け入れるつもりはないのだ。


(アリベルディ・ライグザール、ダンドルフ・クロスヴァーデン……女王国の大臣二人が、裏でそうとう悪どい事をしてた。それはもう、ライグザール大臣の言動と行動からも分かる)


 馬車に乗り込み、無造作に座る。

 隣にはフレイウィ・キュア。癒やしの精霊が。


「ミオ、心が乱れてる……はいどーぞ」


「お、おお?」


 両頬を掴んで、キュアは力を行使する。


「ほわぁぁぁぁぁぁ……」


 ポワワ……と、内部を通じて癒やされる。

 どうやらキュアは、外傷だけでなく心傷まで癒せるらしい。

 今の場合は、ストレスの緩和だ。


「おいミオ、あまりくっつくな、お嬢様……会長に言うぞ」


「ジル、あれは治療行為らしいぞ」


「……冷静に言うのやめてくれよ恥ずかしいから」


「でも事実。この方法が簡単」


 ジルリーネはミオを少しだけ?脅し、ジェイルはバカ真面目に受け入れる。

 キュアはこれが最善だと言い張り、ミオはされるがままだった。




 半日後、夕方になった時間帯にミオたちは【アルテア】に到着した。

 回復したミオが、馬車の強度を【無限永劫むげん】で強化し、馬の蹄鉄ていてつに疲労防止の効果をつけたからだ。


「ちょっと行って来る!!」


「あ、おいミオ!!この精霊は!?」


「平気。貴女についてく」


 【アルテア】に到着した途端、ミオは駆け出した。

 向かう先は勿論、ミーティアのもとだ。


「あ、おい……背中に乗るな!」


「無理っぽい。疲れたし」


 キュアはジルリーネの背中に勝手にのしかかり、背負わせていた。

 因みにジェイルは馬たちと馬車を片付けている。




「――ティア!!」


 ドバン――!!と思い切り扉を開けて、自分の部屋で待っているように伝えてもらったミーティアのもとへ。


「……ミオ、お帰りなさい……」


 控えめな笑顔で、ミーティアは迎え入れた。


「おっそいのよ!!」


「ってクラウ姉さんまでっ!」

(やばい、除け者にしたことまで伝わってるか?)


 紫月しづきは、クラウにとっても因縁だ。

 だけどミオは、それを無視して行動をしたのだ。

 理由は複数あるが、一番の理由は、紫月しづきの力である、前世の死因を思い出させる力だ、それはクラウでは防ぎようがないからだ。

 紫月しづきと対面し、力を行使されれば、クラウは詰んでしまう。


「いちゃあ悪いの……はぁ?」


 接近し、クラウは見上げるようにしてミオを見る。

 しかし、ミオの襟を掴んで引き寄せると。


「おっ……」


「しっかりなさい。男の見せ所よ……この子に格好いいところ見せたら、色々となかったコトにしてあげる。いいわね?」


「……ひっ!は、はい!!」


 小声だが確かに強い圧。

 ミオの中で、また一つ姉のくらいが上がったのだった。


「そ。ならいいわ……私と貴方の話は、何時でも出来るから……んじゃね」


 ポンっと背中を叩いて、クラウは部屋から出ていった。


(敵わないな、あの人には)


 去っていく小さな背中に感謝しつつ、ミオはミーティアの向かいに。

 ベッドに腰掛けていたミーティアの視線に合わせ。膝を着く。


「ただいま。心配かけたな」


「ううん、私も……」


 ミオは気付く。

 ミーティアは眠れていない。

 【アルテア】に帰って来るまでの数日で、きっと一睡もしてないのだろう。


「ごめん、大変な時に傍に居てやれなくて」


「大変なのは、ミオも……皆もだから」


 ミーティアならそう言うと分かっていた。

 無理をしてでも、必ずそう言うと。

 だからこそ、ミオも細心の注意をしてきたつもりだった……しかし、このザマだと後悔する。


「そんなんじゃない。俺は、どんな時でもティアに言って欲しいよ」


「……ミオ」


 微かに震える手に、ミオが優しく触れる。


「こんな事なら、王都になんて行かなきゃよかった……って、そう言えたらいいんだけど。そうもいかない事情ができてさ……」


「うん、分かってるわ……だから――」


「違う……そうじゃないんだよ。俺は、そんな状況でもティアに頼って欲しいと思ってるし、頼られたいんだ。だってそうだろ?俺たちは、一緒に進むって約束したんだ……前に、未来にさ」


「……ええ、そう……よね」


 ミーティアに何があったのか。

 それはクラウからも聞いている。

 しかし一番後悔しているのは、ジルリーネだというのも理解できる。

 平常を保ってはいるし、ジェイルと和解したのも大きい。


 だから二人がその場にいれば……などと言う人間はいないだろう。


「そうさ。それに、春先の旅行でも……さ」


「ぁ……う、うん」


 赤くなる二人。

 この二人は、春先の旅行で結ばれている。


「お、俺は!あの時に言った言葉を……無下にはしない。絶対にティアを守るし、一生……傍にいる。それこそ、死ぬまでだ」


「ミオ……わ、私もだよ。でも、だけど……」


 ミーティアの脳内に付き纏うのは、父の言葉。

 “青の継承者”……帝国の血筋。あのお方。

 関わればただでは済まないのではないかと、不安が襲いかかる。

 ミオを始め、大切な仲間や友人たちが巻き込まれるのではないかと。


 だが、ミオはそれを知っている。

 アイシアが、【アルテア】に到着する直前に教えてくれたのだ。

 未来の光景を……ミーティアに訪れる可能性のある地獄のような未来を。


「もう、俺はティアを離さない」


「え――きゃっ!」


 ガバリと、ミオはミーティアを抱き寄せた。

 力強く、目一杯思いを込めて抱きしめた。

 もう離さない、離してたまるか。ずっと傍に居て欲しい、添い遂げて欲しいと。


「好きだ、愛してる。誰にも触れさせたくない!」


 そっと、ミオの背中に添えられる手。

 弱々しくはあるが、抱き返される。


「私も、好き……大好き……愛してるっ」


 溢れる涙と想いは、未来への抵抗への証。

 最悪のシナリオを蹴飛ばすための、二人のちぎりだ。


「……」

「……」


 言葉は要らない。

 願いは一つ……重なる唇が物語る。


 こうして、少年は大人になる。

 最愛の伴侶という、守るべきものを得て。




~ 第11章【少年期を終える時】後編エピソードEND~


 澪から始まる異世界転生譚・少年編〜手違いで死んだ俺、女神に最強の能力と武器を貰うも、スタート地点がド田舎だったのでスローライフを目指す事にした〜


 少年編〜完〜


―――――――――――――――――――――――――――――

 少年編が終わりました……全11章、約180万文字。

 二年近くかけ、自分の中でも初めて完結作となりました。

 ただし、物語は続く。少年編ですのでね、引き続き青年編もお読みいただけると、大変嬉しいです。


 さて、ミオが大人に……色々な意味で。

 完全な完結までは、リバースストーリーが残されていますので、それを書き終えてから、連載中〜完結となる予定です。

 それでは、引き続きリバースストーリーをよろしくお願いいたします。


 リバストの例・ミオとミーティアの小旅行。

       ・ルーファウスの国取り物語。

       ・後の世界の魔王様。

       ・【アルテア】の人々。




 NEXT STAGE――澪から始まる異世界転生譚・青年編〜神を超えるその力、真の異世界を生み出す神王となり、やがて訪れる世界の布石へ〜

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