エピローグ11−8【月日をかけて3】

※少々残虐な描写があるかもしれません。

もし怒られたら編集します(汗)

―――――――――――――――――――――――――



◇月日をかけて3◇


 女神の部屋にしては狭いその部屋で、香りのいい紅茶を飲む。

 少しだけ落ち着ける。そんな気がして、ミーティアは息を吐く。


 今し方、【ステラダ】で起きた出来事をアイシアに話し終えた所だ。


(もし、あの時【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】でた光景が……その“あの方”って人とミーティアの子供だったら、ミオの傍にはいないと思う)


 アイシアは顎先に指を這わせ、真剣にミーティアの話を汲み取る。

 アイシアは能力で未来の光景をている。

 ミオとミーティア、そしてその子と思われる暖かい家族の光景だった。


 それを知ったから、アイシアは身を引いた。

 だが……それが事実ではないなら。


「はっ!!」


「アイシア?」


 ブンブンブンブン――!と首を振るう。

 浅ましい考え、いやしい考えを吹き飛ばす。


「な、なんでもないよ。それで、えっと……」

(どうしよう。未来の光景はあまり話さない方がいいって……エリアルレーネ様に言われてるけど)


 理由は、運命が乱れるから。

 運命の女神であるエリアルレーネは、もっとも因果を重んじる。

 未来を知ってしまったら、その運命が捩じ曲げられる可能性が出るからだ。


「私、どうしたらいいんだろう!?」


 頭を抱える。

 暗い顔は、まるで数日寝ていないかのようなやつれ気味であり、髪の毛はボサボサに掻き乱して。


「ミーティア……?」


 こんなミーティアを、アイシアは見たことがなかった。

 自分を追い詰める行為だと、それは理解できる。

 昔から負担を抱えこむ女性だとも認識している。しかし、それでも自分のたちの交流の中で、人間性というものを確認してきたと思っている。


「どうして、お父様はあんな……酷い事を、私は……私は」


 焦点が合わない視線は、アイシアに向けられる。


「――ミーティア、貴女……」


 アイシアの濃紫の瞳が輝く。

 【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】が発動した。


 それは……ミーティアの地獄。

 囚えられ、犯され、子を産まされる。

 何も見えぬよう眼球を抉られ視界を奪われ、何も聞こえぬよう耳をちぎられ塞がれ。

 逃げられぬよう四肢をもがれ、身体を吊るされ、そして延々と凌辱される。


「……ぁ。ぁぁ……うっ……!」


 アイシアは、思わず口を押さえた。

 まさに地獄、死を望む女性に、それすら許さない外道。

 二人の中年の男性と……老人。


 ミーティアを取り囲む、何人もの男たち……それに魔物。


(まさか……まさか、そんな事)


 想像も容易い。

 これは……これだけは阻止しなければならない未来。

 エリアルレーネにとがめられようとも、友人のそんな未来はたくはない。


「ア、アイシア……大丈夫?」


 心配そうな表情だ。何か無いかと視線を右往左往させる。

 この状況でも、自分ではなく他人を心配するのかと、アイシアになにかのスイッチが入った。


「……下衆げすの所業だわ。だから決めた……絶対に阻止する!あたしは、あたしを賭してミーティアを救う、それが二人の未来。あたしが初めにた未来を……あんな地獄にけがさせはしないわ!!」


 アイシアは涙を堪え、ミーティアの手を掴んで叫ぶ。

 ミーティアの青い瞳に映るその決意に、燃える夕日のような橙色の髪に。

 熱い意思を、たぎる思いを込めて。


「絶対に、あたしたちはミーティアを渡しはしない。だからミーティアも、絶対に負けないって強く……強く意識を持って!!そうすれば、大丈夫だから……絶対に、必ず!」


 半ば自分に言い聞かせる言葉だった。

 鬼畜を超す悪魔の所業を行うその中に、実の父親が混じっているという地獄。

 人として扱われず、尊厳を奪われ踏みにじられて、そんな事……させてはならない。


「でも……」


「ミオなら絶対に助けてくれる。でもね、それにはミーティア、貴女の強い意思が必要なの……向き合うだけじゃなくて、立ち向かう覚悟も、そして失う覚悟も」


 だがそれは、手に入れるための消失。

 幸福論を唱えるつもりはないが、アイシアは愛を与えたかった。

 ミーティアが狙われる理由までは、実のところまだアイシアには分からない。

 それでも、ミーティアを渡すことが地獄の始まりだと……王国の蛮行ばんこうを超える悪意がその先にあると、それだけは知ってしまった。


「覚悟、か。いったいどれだけの覚悟を持てば……平和になるのかな」


「ずっとだよ、それを持ち続けることが、平和に繋がるとあたしは思う」


「うん」


 その覚悟は、世界の中心に存在する者の覚悟だろう。

 それを拒絶できない運命。それがミーティアや、自分を含む人たちなのだと、改めて認識したアイシア。

 このままでは、【アルテア】とて滅びの道を行く……


「全部話そう、ミオに」


「……クラウと、同じ事を言うんだね、アイシアも」


「当たり前だよ。だってミーティアは、ミオの恋人……ううん。奥さんになるんだから」


「え?」


 これもエリアルレーネに咎められるだろうか。

 だけど、もういい……アイシアの中で、それが決められた。


(あたしは、この【アルテア】に愛を溢れさせる。全て人に祝福を……慈愛を)


「ね、ねぇアイシア……今、なんて」


「ふふっ、その時は近いよ。そうなれば、ミオの求めてるものも……ね」


 ウインクをするアイシア。

 戸惑いを浮かべるミーティア。


「え、ええ!?」


 ミオの求めるもの。大切にしているもの……それは、家族だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る