エピローグ11−7【月日をかけて2】



◇月日をかけて2◇


「そ、そうだったのか……」

(大丈夫かな、シャロのやつ)


 ジェイルとジルリーネからその後のことを聞いたミオ。

 シャーロットと母親の事が気にかかっているが、それよりも。


「えっと、キュア……」


 先程からずっと、話を聞いている間。

 じぃぃぃ〜〜〜〜っと見詰められていた。


「なに?」


「いや、君が俺の怪我を直してくれたんだな」


「そうだよ」


「俺たちがミオの元に辿り着いた時、既にその娘はミオの傍らにいた」


「……凄まじい力だった。わたしもジェイルも、あのような力は見たことがない。あれはクラウの回復とも違い、不可思議だった」


 ジェイルとジルリーネの感想だ。

 ミオを治療したという事もあって、連れてきたそうだが。


「なんで俺に?」


「え?なんで?」


 小首をかしげて聞き返してくる。


「こっちのセリフだが!?」


「ミオ、落ち着け。精霊という存在は人類とは違うのだろう……実体は持たぬらしいし、その身体も借り物なのだったな?」


「そう。だから名前が欲しい。君につけて欲しい」


「名前が?」


 揺れる馬車の中で、名付けを望む。

 キュアというのでは駄目なのだろうかと、ミオは思案するが。

 少しだけ考え。


「――分かったよ。キュアってのが、人間的に言えば家名だったな」


 腕を組み、う〜んと考える。

 正直言って、ミオに名前をつけるセンスはない。

 技に【電撃デンゲキック】と付ける男なのだ。

 最近は進歩しつつあるが、それも格闘ゲームっぽいという理由での技名だ。

 クラウのような、突発的なセンスではまるでない。


 ミオはキュアの白い髪や服装、気怠げな雰囲気を見て。

 直感で決め、意味もないが名をつける。


「フ、フ……フレ、フレイウィ……ってのはどうかな?」


「フレイウィ?フレイウィ……フレイウィ」


 覚え込むように、キュアはミオがくれた名前を連呼する。

 そして大きくうなずき、黙る。


「あれ?」

(やべ、気に入らなかったかな。意味も特にないしなぁ)


 しかし、キュアはおもむろに立ち上がり。


「――キュアの名前はフレイウィ・キュア!!」


「おわぁぁ!」

「ど、どうした!?」

「……」(無言でビクつく)


「私は君、ミオの契約精霊。君の望む事は何でも叶えてあげる……よろしくね」


「あ、うん……え?」


 理解が追いつく前に自己解決されてしまい、ミオはそう返事をするしかなかった。

 そんな感じで、精霊キュアはミオと契約をしたらしい。





 ミオたちが【アルテア】に戻っている。

 そう連絡が来たのは、精霊解放騒動が起きた次の日だった。

 魔力枯渇と大怪我のせいで、馬車移動に限られていると聞いた時は、全員が心配をしたが。


「一番の心配はアンタよ、ミーティア」


 ミオが怪我をしていると聞いて、一番キレたのは姉のクラウだ。

 しかし彼女は切り替え、隣に座るミーティアを心配する。


「……」


 ミーティアとセリス、そしてヨルド・ギルシャは【アルテア】へ到着した。

 しかし、やはり【ステラダ】で会った父親……ダンドルフ・クロスヴァーデンとの会話が尾を引いているらしい。


「うん、ごめんね」


「別に謝ることじゃないわ、セリスの事も……ウィズの事もね。それにジルも、ミオと合流してたんだし」


 セリスは怪我が深刻だった。

 銃弾で穿うがたれた腰部の傷は、クラウの【クラウソラス】でも癒せなかったのだ。

 自然の治癒を待つしか無い、それが答えだった。

 幸いにも、セリスは意識もあるし重傷ではない。それがなければ、ミーティアは深く落ち込んだだろう。


 それにジルリーネも後悔を滲ませていたらしい。

 自分が離れなければと、そう連絡をしていた。


 そしてウィズだが、人間の身体を得た彼女は……レイモンド・コーサルと共に不明だ。しかし、【オリジン・オーブ】を通じて連絡だけは入った。「【アルテア】へ戻るのには、しばらくかかります」と。


「うん」


「……」

(はぁ……ミオもミオよ、一人で全部背負しょい込んで。私に何も言わないで)


 呆れるように、珍しく下ろしている髪を払う。

 高飛車な女の子がしそうな仕草だ。


「――それで、ミオ君はこちらに向かっているのでしょう?」


 席につくルーファウス・オル・コルセスカが問う。

 その問いにクラウは。


「ええ、ジルからの連絡によればね。もう一日あれば着くそうよ」


「それなら心配はいらないね、ミーティアちゃんも元気だして!」


 ルーファウスの姉、レイナが肩を叩く。


「はい、先輩……ありがとうございます」


 しかし暗い。


(う〜ん、これはミオくんじゃなきゃ無理っぽいですね)

(だね〜、お父さんになにか言われたみたいだけど……それかな)


 姉弟の視線の会話に、クラウは。


「ミーティア、せめてミオには全部話しなさいよ」


「え?いや、でもこんな話……」


 『あの方の子供を産んでもらう』。

 そう、実の父に宣告されたのだ。

 距離を取り、絶縁に近いと勝手に思っていた父……その父と戦うと、商会で勝ってみせると意気込んで……あれだ。


「いいから話しなさい。ミオはきっと真摯しんしに聞いてくれる、それに……もうアンタたちはそういう……関係でしょ?」


「……ぅ、うん」


 騒動は未だ沈静化を見せない。

 精霊は、大陸全土で確認し始めているとも聞く、きっと他の大陸(西大陸や【ラウ大陸】)でも同じだろう。


 ミーティアは思う。

 そんな余裕が、今後訪れるのかと。

 自分をかまってくれる時間が、ミオにあるのかと。




 夜になり、ミーティアはアイシアの部屋を訪れた。

 コンコン――とノックをすると。


「ミーティアね、入って?」


 訪れるのを知っていたように答えるアイシア。


「ごめんなさい、こんな深夜に」


「ううん、待ってたの。あたしはほら、自由に【アルテア】を行き来できないから」


 【慈愛の女神オルディアナ】として、【アルテア】の初代崇高なる者と認められているアイシアに、【アルテア】内を動く自由は与えられていなかった。

 これは他の女神たちからの指示で、アイシアも受け入れている。


「さ、座って?あたしも久しぶりだからね、女神様たち以外とお話するのっ」


 嬉々として、アイシアはテキパキと準備をする。

 テーブルには既に二組のティーセットが置かれ、焼き菓子まで用意されていた。

 ミーティアは遠慮気味に席に着き……そして話をする。


 自分の置かれた意味の分からない境遇と、愛するものにそれを話していいものかを。

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