エピローグ11−3【精霊3】



◇精霊3◇


 三国国境の村【アルテア】。

 ミオが女王シャーロットと対峙し、ミーティアとセリスがダンドルフ・クロスヴァーデンと相対した時……精霊が解放された時、ここ【アルテア】でも物語は動いていた。


「……な、なによコレ!」


「まさか……まさかっ!」


「ゾワゾワするぞ〜!」


「あーあ、終わったわね、この世界も」


 アイズレーン、エリアルレーネ、ウィンスタリア、イエシアスの順に。

 【四神教会ししんきょうかい】でその感覚と向き合う女神たち四人。

 そして、新人のアイシアは。


「これは、女神みなさんに似ている?」


 その疑問はエリアルレーネに投げかけられる。

 そしてエリアルレーネは、戸惑いながらも答えてくれる。


「そうです。この気配の正体は――精霊。かつて、召喚王が別世界から招いた客人、わたくしが……まだ人間だった頃の」


「……エリア」


 エリアルレーネは、深く思い出す。

 かつて貴族の令嬢だった頃の懐かしくも必死に生きた、輝かしい過去を。

 そしてそれは……前世でエリアルレーネの妹だったアイズも同じだ。


「精霊の全ては、一人の精霊……精霊女王が生み出した存在です。人間だった契約者の男性が亡くなり、その寂しさと無念が生み出した……彼女の悲しみ。それが精霊という種族」


「――だけど、その力は有りえないほど強力で……人知を超えた力を授けてくれるわ。でも、それは破滅の力なのよ。なにせ、女王と契約した彼もそうだった」


「アイズ……?」


 エリアルレーネの言葉に付け足すように、アイズレーンは悲しそうに続ける。


「あたしも、精霊の女王を知ってる……彼女は余りにも強くて、賢くて……でも孤独だった。でも愛情も、彼に対する愛も……強かったのよ」


「――アイズ、貴女……」


 信じられないものを見るような目で、エリアルレーネはアイズレーンを見定める。

 アイズレーンは肩をすくめて。


「あーあ、負けヒロインでいるつもりだったのになぁ……あたしも、お姉ちゃんも」


「アイズ……」


 何かを悟ったようなエリアルレーネは立ち上がり、アイズレーンを抱き締める。


「ごめんなさいアイズ……気づかないで」


「いいのよ。あたしもバレないようにしてたし……今のあたしだけだし。それに、歴代のアイズレーンは、そうじゃないしね」


 抱き合う二人に、ウィンスタリアもイエシアスもキョトンと。

 しかしアイシアだけは、優しげな笑顔で見つめていた。


 しかしそうもしてられない。


 パンパン……と手を叩き、アイシアは。


「では、感動の再会は一旦お休みいただいて、まずはその精霊をどうするべきなのか、それを教えて下さい。お二人共」


「……そうね」

「……ですね」


 アイズレーンは席に座り直し、エリアルレーネはコホン、と咳をし。


「どうする。と言われましても、実は我々にも何も出来ないのです……精霊の感覚は、北ですから……おそらくくさびが解かれたのでしょう」


 アイズレーンは瞳を一瞬だけ閉じ、直ぐ開き。


「今【拡張探索サーチ】した……ミオね。でもまさか、そこまで力をつけるだなんて」


 発端はミオだけではないが、遠からず正解だ。


「急展開ですね、彼は戦いを望んではいなかったのに……」


「多分ミオ、自分だけでやろうとしたんです。エリアルレーネ様の言う……運命と」


「なるほど」


「うわぁ……解釈一致だわ。あいつのやりそうなことねー」


 考えるようなエリアルレーネと、頭を抱えるアイズレーン。

 アイズレーンは言う。ミオの行動した理由を想像して。


「あいつ、クラウを置いてったのはそういう事でしょ?あの場所……つまりリードンセルクの封印地にいるのは、前世の因縁。ミオとクラウを前世で殺した……その女が居たってことね」


 その言葉に、イエシアスが叫ぶ。


「はぁ!?……まさか!あの王女がっ!?転生者でもないのに……って!そうか、エリアが言ってた気配って……オウロヴェリア!!」


「「「……」」」


 確定だとうなずく面々。

 いち早く気付いていたからこそ、クラウを巻き込まぬように一人で行動をし、そして打ち倒したのだろうと考える。その結果が、精霊の解放だ。


「精霊は、もともと数体よね?」


「そうです。女王と……八体の強力な精霊が、祖となります。そしてそこから派生するのが……無数の精霊たち」


「単純に言えば、上位、中位、下位精霊ね。それ以上の精霊は、固有の名前がついているのもいたはず……と言っても、精霊は直ぐに腹黒天使が封印したから、詳細は無いものと思ったほうがいいわね」


 【四神教会ししんきょうかい】で話し合う。

 精霊はそれ程までに異質な種族なのだ。


「私は……あの王女が女神だったことが解せないわ」


「何よ急に、利用されたって事にやっと気付いたの?」


 イエシアスは歯噛みする。図星だった。

 しかしそれでも、自分は自分の使命を果たそうとしていたのだ……それがミオに阻まれたとしても。


「ミオは、オウロヴェリアをも倒した……そう思っていいのよね?」


「彼女が本当に復活していたとすれば、ですが」


「復活も何も、多分生まれ変わってるのよ。地球に……そんな能力があったでしょ、確か……」


「【輪廻りんね】ですね。わたくしたち女神が所有するオリジナルスキルは……転生の特典ギフトとは比べられない程の力を持ちますから」


「すっごいなぁ〜!」


 我関せず、ウィンスタリアが笑う。

 自分も女神だが。


「でも、精霊は?あのミオが解放したとは思えないんだけど」


「「「……」」」


 オウロヴェリアを倒したというミオが精霊の解放をしたとは、ここに居る誰も思わない。


「裏があるわね――」


「むっ!!ゾワゾワがぁぁぁあっ!!」


 ウィンスタリアが身体を掻きむしるようにして立ち上がる。


「来た……憑代よりしろを求めて、精霊は……万物に宿る」


「止めることは出来ないんですか?」


「無理ね」

「無理でしょう」


 全ての精霊が何かに宿るのを待つだけ。

 それしか出来ないと、二人の女神は断言する。

 そしてこの数日後……世界に新たな種族、精霊が認められることになるのだ。

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