エピローグ11−1【精霊1】



◇精霊1◇


 ミオ・スクルーズこと武邑たけむらみおが、仙道せんどう紫月しづきと対峙し、その因縁を払拭したと同時刻。

 商業の街【ステラダ】に滞在していたミーティアとセリス、そして協力者の元・騎士二人、コーサルとヨルドの二人だが……


「……お父様」


「「ザルヴィネさん!!」」


 ミオと分かれて、【オリジン・オーブ】の力で結界を張って直ぐに、その再会は訪れた。

 ミーティアの父、ダンドルフ・クロスヴァーデン。

 そして元【リューズ騎士団】の一人ザルヴィネ・レイモーン。

 二人が、ミーティアたちのもとへ現れたのだ。


「久しいな、ミーティア。元気にしていると信じていたぞ」


「……私は、正直嬉しくはありません」


 父の言葉をはっきりと捨て去るミーティア。

 しかし、その頬には汗が流れる。


 今までの人生で、ここまで威圧的な父は初めてだった事に加え、その見たこともないような武器が……自分を狙い定めていたからだ。


 ゴクリと、喉が鳴る。


「ミーティア、撤退しましょう。あれはヤバイ……」


 セリスがミーティアの背後からこっそりと。

 アレ……とは、異形の獣と化したザルヴィネ・レイモーンの事だ。


「で、でも……」


 そしてそれと同時に、ミーティアたちに取っては朗報と呼べる事態も起こる。


『――ミーティア!セリス!』


「「ウィズっ!?」」


 ミオ・スクルーズから独立した能力、神化した【叡智えいち】だ。


『ダンドルフ・クロスヴァーデンが所持する武装は、銃と呼ばれる弾丸を発射する射撃武器です。弓や弩とは違い、この世界では見られない武器です!セリスの言うように、撤退を推奨します!!』


「でも、動けないわ」


「それね」


 ミーティアの言葉に、セリスは引きつって笑う。

 その言葉の意味は、ダンドルフ・クロスヴァーデンの背後に存在した。


「不死の兵士たち……」


「だな。聖女の玩具おもちゃだ……それにしてもスゲェ数を用意したな」


「コーサル、あれは【死葬兵ゲーデ】って呼称されてるっす。確か、悪魔の名前っすね!」


「聞いてねぇよ馬鹿が!それよりザルヴィネさんだ……あんな姿になっても、分かるもんだな、畜生が!!」


 最後に会ったのは数年前。

 それこそダンドルフ・クロスヴァーデンの命令でミーティアを狙って、【リューズ騎士団】が【ステラダ】で徴兵ちょうへいを行っていた時だ。


「……」


「もう言葉も話せねぇのかよ、ザルヴィネさん。あの時、俺を助けてくれた人は……そこまで落ちちまったのかよ!ザルヴィネ・レイモーン!!」


 正確には、堕とされた――だろう。

 聖女の【奇跡きせき】を一番に注ぎ込まれたのが、このザルヴィネ・レイモーンという転生者だ。

 アレックス・ライグザールとは違い、肉体関係にならずとも、薬品を大量摂取させ、直接肉体を改造された……まさに改造人間。

 意思もなく、もはや命とも呼ばない……悲しき存在だ。




「……どうするヨルド、こりゃあ俺たちじゃあ勝てねぇぞ」


「そっすね、せめてゲイルさんがいてくれたら」


 既に亡き人物に頼る。

 それは諦めに近い。そんな事は百も承知だが、コーサルは。


「馬鹿が……それじゃあ浮かばれねぇだろ、ゲイルも……ザルヴィネさんもだ!!」


 腰から杖と剣を抜く。

 ヨルドも戦おうとはするが、彼は参謀タイプ。

 コーサルもそれを知っているからこそ。


「ヨルド、お前は嬢ちゃん二人を連れて撤退しろ。死なせるわけには行かねぇだろ、姫さんだしな」


 セリスの事だ。


「だ、だけどコーサル……一人じゃあ!」


「るせぇ!!俺一人なら、【収縮シュリンケージ】でどうにでもなるんだよ!」


 ヨルドの尻にケリを入れるコーサル。

 その音と同時に……発砲音。

 その方向を二人も見る。


「――うっ……っ……!」


「セリスっ!?――お、お父様っ!!」


 腰部を押さえうずくまる皇女。

 掠めた程度だろうが、その痛さは転生者の二人は知っている。


「ヨルド、分かってんな?」


「でも……コーサル」


「心配すんな。俺だってあのガキと戦うって約束したぞ……死なねぇよ」


「……分かったっす」


 それ以上は言う必要もない。

 また後で話せばいいのだと、願掛けのようにようにして、ヨルドはセリスのもとへ。


「じゃあ始めっか、ザルヴィネさん……ゲイルが待ってる」


「……」


 改造され尽くし、人の原型を留めていないザルヴィネとの再会たたかいが始まった。



 そして。


「お父様!!どうしてセリスを……私を狙えばいいでしょう!?」


「それは出来ん。私たち・・にはお前が必要だ……ミーティア」


 うずくまるセリスを支えるようにして、ミーティアは父親を睨んだ。

 しかし、その銃口は向けられたままだ。


『――ミーティア、氷の障壁を』


(分かってるけど、さっき結界を張った魔力がまだ……回復してないのよ。だからセリスも、攻撃を受けて)


 結界は非常に強力なものを張ったのだ。

 だから強くなったミーティアでも、消耗が激しかった。

 それに、ミーティアも感じている。


 おそらく、父親の攻撃の方が数段速いと。


「こちらへ来なさい、ミーティア。お前は青の継承者だ、その力も継承している可能性があるんだ」


「え?」


 突然の宣言を、ミーティアはなんの事か一切理解出来なかった。

 それもそのはず、今までそんな話は一度たりともしたことがないし、青の継承者などと言われてもピンとも来ないのだ。


「ミオ・スクルーズが居ないことは承知している。そしてあの不出来な女王も滅びるだろう……さすれば、あの方の言葉通りに精霊が解放される」


「ちょ、ちょっと待って!一体何が……何をしたいのですかっ!」


 戸惑いも疑いも、全てがごちゃまぜになってしまって、ミーティアは泣きそうだった。離れてしまったばかりのミオに会いたいと、心から思う。


 しかし、平和な親子の会話などある訳もなく。


「「!?」」

「「!!」」


『――これは!』


 その時は訪れたのだ。

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