11−106【新世界で9】



◇新世界で9◇


「ふはは!ふははははっ!!積年の思い!【雪落の天使】よ!精霊の解放を以って……この世界は新世界へと昇華するのだ!!」


「……何を言って!おい!!やめっ――」


 ビキキ……ビキリ!


「ミオ様、空間にっ」


 分かってる!


「大臣!何をするつもりなんだっ!この地震は、そのオーブはっ!!」


 揺れが大きくなり、空間の歪みも激しくなっていく。

 紫色の罅はドンドン広がり、そして……その気配は大きく存在を増加させていった。


「来た……来たぞ!!精霊たちだぁぁ!!」


 姿は見えないが、気配は確かにある。

 魔力反応と似た、少しだけ違うなにか。


 大臣は興奮気味に走り出し、後ろに控えていた【死葬兵ゲーデ】へ叫ぶ。


「貴様等、その時が来た……その身を、精霊へと差し出すのだ!!」


「差し出す?うわっ……と!シャロ、こっちに!ここにいたらヤバイ!」


 大臣に付き合ってはいられない。

 それより、まるで俺たちとの会話が、全部時間稼ぎだったかのように感じる。

 知らない事だらけでも、この場にいたらヤバイのは……


 フワリ……と、空間の裂け目から様々な色彩の何かが出現した。


「なんだ!?これは……魂、か??」


「そう!それが精霊だ!そしてこの【死葬兵ゲーデ】たちは、精霊を定着させる器となるのだ!!」


 まさか、その為に。

 始めから、聖女が実験をするのも計算されていた?

 俺が紫月しづきと戦ってこの空間を出現させるのも?


「お前!!一体何がしたいんだっっ!!」


 俺はシャロを抱える。

 シャロの母親がいる離塔まで跳ぼうとするが、シャロが俺の身体にくっつき言う。


「ミオ様、もう……いいのです」


 諦めたような、そんな落胆の声だった。

 さっき大臣から聞いた話が後を引いているんだ。

 決まりがつかない問題ごとを、今後は彼女も抱えるだろう、だけど。


「そんなの後で幾らでも話せばいい!!」


 まずはシャロと王妃をここから遠ざける。

 大臣は銃口をシャロに向けていたし、命が危ない。


 シュン――と【転移てんい】で離塔の中へ出現し、カツカツの魔力が更に消費される。

 俺は鼻血を拭いながら、後ろ姿の王妃の肩に手を置き、王妃が驚く間もなく【転移てんい】する。


 場所は【王都カルセダ】の外。

 下水の入口だ。


「……こ、ここは……」


「は、母上……」


「直ぐ戻る!!」


 二人を置き、俺は大臣のもとへ戻る。

 【転移てんい】で戻ると、精霊の魂らしき光は更に増えていた。


「――こ、れは……」


 俺の耳に入る小さな声。

 クスクスと笑うような女性たちの声だ。

 更には光の集合体のような、人間の姿にも見える光。

 女性の姿……だな。


「ミオ・スクルーズ!お前は歴史的瞬間を目の当たりにしている!四千年、退化してきたこの異世界は……今この時を持って進化するのだ!!」


「……アンタは、何が目的なんだっ!」


 肩を押さえ、俺は大臣に歩み寄る。

 しかし大臣は先程のように銃を構えるでもなく、俺に胸元を掴まれる。

 錯乱する異常者を相手にしている気分だよ……くそ。


「俺は、新世界の王となる!!そしてその先に居る――【主神レネスグリエイト】と成るのだ!!」


 神に成る。そんな事が、この男の目的だと言う。


「……この国を、どうするつもりだ!?」


「どうもしないさ。このまま滅びればいい、君がそうしたようにな」


「くっ!」


 王城を破壊したのは確かに俺だ。

 そして女王シャーロットに向けられている世界からのヘイトは異常。

 真剣につぐなおうとしても、許される確率はそうとう低い。


「俺をそんな目で睨んでも意味はないぞ。俺の目的はもう、達成したのだからな!」


 今回は精霊の解放だけが目的であり、俺と戦うつもりはないと言うのか。

 確かに俺も満身創痍だが……それでも。


 必死に魔力を使い、【無限永劫むげん】で何とか攻撃しようとした俺だが……不意に感じた気配にゾッとする。

 思わず大臣から離れ、その気配の先……空間の裂け目を凝視する。


「――ほぅら……そこにいる!精霊の始祖!!召喚王の愛した、始まりの女性が!!」


「……なんて力だよ……ふ、震えてる?俺が??」


 裂け目の奥から感じる、紫月しづき以上のヤバさ。

 復讐心や恐怖心とは違う……だけど、怖い。


「ふははははは!!世界は変わる、君が変えた!!四千年の停滞を、君が変えたのだよっ!ミオ・スクルーズ……!!」


「……」


 呆然と見るその光景は。


 ――新しい世界が創り出された瞬間だった。

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