11−104【新世界で7】



◇新世界で7◇


 アリベルディ・ライグザール。

 この男が転生者だって、俺も知らなかった……あの時はウィズもいなくて、調べる手段もなかった。しかも銃器を、剣と魔法のファンタジーの異世界で作り出そうとは。


 シャロの言葉に銃を引っ込めてくれたが、どうも裏がある気がする。

 それもとびっきりの悪意、紫月しづきも驚くだろうな、間近にこんな化け物がいたんだから。


「な、なぜそのような顔をするのです……アリベルディ」


 不敵な笑みは、シャロでも気付ける程の傲慢ごうまんさを内包していた。

 だけど油断は見えない。愚かさを見せるつもりはないという警戒心もある、それは強者のそれだ。


「おや……これは失礼を、陛下。つい、無能で愚かな小娘の理解のなさに……心内が溢れ出てしまいましてね」


「な……」


 確実に言える。

 この男は、ずっと昔から狙ってたんだ。

 この【リードンセルク女王国】を、手中に収める為に。


 俺は肩を押さえながら立ち上がり、もう一度シャロを庇うようにして立つ。


「……アンタは狡賢ずるかしこく、その知識を隠してこの国で生活してきた、その武勇は本物なんだろうさ……武力で国の大臣まで成り上がった、実力者」


 だけど。


「でも、それはアンタの一端に過ぎない。その拳銃だって、女王の命令なんかじゃなく……既に昔から持ってたんだろ」


「その通りだミオ・スクルーズ、俺も随分苦労したよ。なにせ先王は、外交を拒み続ける小心者。王妃はそんな王を上手く使い、それはまぁ遊んでいたな」


「……」


 絶望的な、そんな話を聞かされるシャロ。

 だが、おそらくそれは事実。


「王妃は、城内で噂になるほどの好色でな……その噂を消すのに苦労したよ、まぁ美人ではあるからな、あの王を見れば、遊びたくなるのも頷ける」


「どうして……忠臣である貴方が……」


 それも全部ロールプレイ。

 俺がミオ・スクルーズという優等生を演じていた頃と同じなのさ。

 異世界ファンタジーというものを知っている人間なら、一度は考える。

 詳しくないクラウ姉さんだってそうしてきたんだからな。素のままの自分でいたのなんて、ユキナリの馬鹿くらいだろう。


「本来のアンタは、根っからの転生者って訳か……狙いはなんだ?王座の簒奪さんだつか?それとも世界征服?」


「はっはっは!それはいい……いいが、それじゃあ物足りん」


「……マジで言ってそうなのがヤベェな、アンタ」


 額から頬にかけて汗が流れる。

 紫月しづきとは違ったヤバさに、見ている規模が違う思想。

 この人は、なにか特別だ。


「ミオ・スクルーズ……君だって、邪魔なものは排除するだろう?それと同じだ。俺にとってのこの国も、王も、姫も……邪魔な存在。賛同するものも居る、君と同じでね」


「……ダンドルフ・クロスヴァーデンか」


「理解が早くて助かる。彼はかつて大昔、西の国に存在した皇族の子孫だからな……」


「は、はぁ!?」


 それってつまり、ミーティアも。


「ミーティア嬢はその先祖返り、青い髪がその証拠だ。その血筋は、この世界に必要不可欠。だから是が非でも必要なのだ……ミーティア嬢が」


「――テメェ……!!」


 俺の目の前で、拳を握るライグザール大臣。

 それが俺には、ミーティアを手中にすると宣言されたようで。

 絶対に……絶対に許してはならないと、スイッチが入ってしまった。

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