11−103【新世界で6】



◇新世界で6◇


 一体いつからだ。この大臣が女王……シャーロット・エレノアール・リードンセルクを排除しようとしたのは。

 狙っていた?俺がこの場に来ることも織込み済みで?


「女王ってのは、このシャーロットじゃあ……ないだろ?」


「さて、どうかな?」


 大臣が動く。くそっ……俺はもうほとんど動けないってのに。

 魔力が枯渇して、能力が半数以上使えない上に、【焔煌えんこう】で魔力を吸収しようにも、城が崩壊した時点で、周囲の魔力も吹き飛んでる。


 懐に手が伸びる。

 何かを取り出す仕草だ、まさか葉巻だなんて言わないだろ。

 だけど、その仕草を俺は知っていて。


「――シャロ!!」


 狙いはシャロ。

 そしてその仕草の速さは、俺に何もさせない。


 パァン――!!


「……え」


「ぅぐっ……ぃってぇぇ……」


 俺に覆われたシャロが呟く。

 乾いた音の正体に気付けたから動けたが、まさか。


「ほう、この速度に対応するか……流石は転生者どうほうか、ミオ・スクルーズ」


 火薬の匂い、硝煙は空に。

 俺の肩を撃ち貫いた鉛玉は……地面に穴を開けた。


かよ……アンタ、どうやってそれを……」


「ミ、ミオ様ぁ!!」


 ボタボタと溢れ出る出血に、シャロは慌てながら俺の肩を押さえた。

 ドレスを破り、必死に。


「ふん、これはそもそも女王陛下のお考えだよ。転生者を集める……そうすれば自ずと、中にはいるだろう?近代兵器の知識を持った転生者だってなぁ。知識さえあれば、些末な問題はどうでもいい……異世界だからな」


 そう言えばあの兵士共が話してたな……武器を開発するって。

 それが銃器とか、剣と魔法の異世界をぶっ壊すなよ!


「ぐっ、む……【無限永劫むげん】……」


 シュゥ……と穿たれた肩の穴を塞ごうとするが。

 ゴポリと血が溢れる。傷が塞がらない!?


「無駄だ、ミオ・スクルーズ。この弾丸は特別性でな……能力を無効化するのだよ、全ての、な」


 巫山戯ふざけんな!!俺よりチートじゃねぇか!!


「ど、どこでその知識を得たんだよ……居るもんなんだな、そんな都合のいい転生者」


 それに、女王の指示はつい最近のものだったはず。

 そんな短期間で銃器が作れるのか?俺の【無限むげん】や【創作クリエイト】ならともかく。


 大臣は銃口を拭き、俺の疑問に。


「ん?……ああ、俺だよ。陛下の命令などなくても、俺には始めからその知識があった。前世は刑事だからな」


 刑事……だからその銃、どう見ても拳銃だもんな。

 異世界には不釣り合いな無骨で、完全なる魔力成分のない逸品だ。


「くそ……」

(どうする、傷が塞がらないんじゃ完全に不利だ。それにシャロもいる、二人で【転移てんい】するにしても、魔力が足りねぇ)


「ああそうだ、所でミオ・スクルーズ……アイズレーン様はお元気かな?」


 耳を疑った。

 【女神アイズレーン】の転生者は、俺とクラウ姉さんだけだ。

 なのにどうしてこのオッサンが。


「――な!!な、なんでアンタがアイズの事をっ!!」


「そこまで不思議か?……ああ、そうか。あれはもう千年以上前か、なら今のアイズレーン様は、俺の知らないアイズレーン様という事だ」


 先代のアイズの転生者!?

 だが、アイズレーンは転生に関わっていなかったはず……どうして。


「ア、アリベルディ・ライグザール!!その鉄の武器を下ろしなさい……これは、命令です!」


 シャロが気丈を演じながら叫ぶ。

 声が震える、身体もだ。


「これはこれは、かつてのお優しいシャーロット殿下にお戻りになったようで……」


 大臣は言われた通りに拳銃を懐にしまった。

 素直すぎる。絶対に裏があるだろ。


「わ、わたくしがこの国を災禍さいかに巻き込んだ事は、一生をかけて償うつもりです、ですから……貴方もどうか!」


 驚いているような顔を見せる大臣だが、直ぐに顔色を変えた。

 それは嘲笑、子供の夢を笑う嫌な大人のような、そんな邪悪だった。

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