11−102【新世界で5】



◇新世界で5◇


 女王の勅命で諸外国へと遠征に出ていたはずの、王国大臣の一人……アリベルディ・ライグザール大臣。

 武勇で知られた元・冒険者で、聖女と共に行方知らずとなったアレックス・ライグザールの父親。


「……」


 【死葬兵ゲーデ】の後ろから歩み出るその姿は、まるで軍服。

 王国(女王国)では鎧兜で構成されている騎士団には……不釣り合いだ。


「む?――ああ、君だったか。冒険者学校で一度、確か……ミオ・スクルーズだったな。ミーティア嬢の友人の」


「ア、アリベルディ……わたくしは!」


 女王を無視して俺に話しかけただと??

 何考えてんだこのオッサン。


「お久しぶりですね、大臣閣下……こんな田舎のガキよりも、まずは女王陛下に挨拶が筋じゃないんすか?」


 少し、不穏な空気を感じる。

 予感というか悪寒というか。

 以前会った時はもっと、無骨でかたくなな、武人のイメージだったが。

 今はまるで違う……変貌?いや、これは……俺等と同じ?


 俺の言葉に、大臣はニヤリと笑みを浮かべ。


「うむ、それもそうだな。陛下、ご無事で何より……まことの心を取り戻したようにございますね」


 膝を着くこともなく、こうべを垂れることもなく。

 その言葉を口にした。


「「!!」」


 コイツ……!!


 俺はシャロを庇い立つようにして片腕を広げる。


「ア、アリベルディ……まさか貴方は、わたくしが……別人だったと、知って?」


 シャロは驚愕きょうがくと戸惑いに駆られている。

 俺だってそうだ。このオッサンは、シャーロットが別人だったと知っていた事になる。知っていて従っていた、そうなるんだからな。


 シャロの震える声を聞いても、大臣は淡々と。


「ええ、当然でしょう。あの変わりようでは、誰でも別人と疑いましょう。先王も王妃も、心の奥ではお思いになられていたはずです。娘は死んだのだと……そして誰かが中に入ったのだと」


「そ……そんな」


 ガクリと崩れ込むシャロ。


「アンタは、一体何なんだ……」


 横目でシャロを気遣いつつも、俺は聞かずにはいられなかった。

 さっきも言ったが、この男は俺等と同じ気配を感じる。

 数年前に会った時は感じなかった……その気配、ロールプレイの気配だ。


 大臣は俺を無視して周囲を見渡す。

 一頻り見渡し、景色を確認して言う。


「……ふむ。それにしても見事に消え去ったものだ。【死葬兵ゲーデ】を全て移送しておいて正解だった」


「――ここに不死の兵がいなかったのは、アンタが。なんでそんな事を!」


 疑問にする事ではないと言わんばかりの視線で、俺を射抜く。

 その視線はシャロにも移り、そして。


「決まっているだろう。名ばかりのおろかな女王を……排するためだ」


「……」


 言葉にならず、消えそうなほどの小声で「そんな」と呟くシャロ。

 その視線の意味、その笑みの意味、その企みその思想……嫌でも分かってしまう、この人は――転生者だ。

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