11−101【新世界で4】



◇新世界で4◇


「ここ、は?」


「起きたか、シャロ……でいいんだよな?」


 細める瞳は、クリムゾンレッド。

 髪の毛は漆黒……それはもう変わらないようだな。

 ああそうか、この色……前世で見た紫月しづきの髪色なんだ。


「……は、はい。あ、声……」


 自分の声に驚いているようなシャロを、俺は起き上がらせた。


「平気か?。あ、いや、平気なわけ無いよな、スマン」


 城を崩壊させてしまったからな。

 しかもデータ取る前に。だから、元には戻せないんだ。


「いえ、でもあちらをご覧下さい、離塔は健在です。あの離れは、母上がいるはずですので……お、おそらくですが」


「……そっか」


 二人で見るその塔は、某所の斜めになった塔より斜めだった。

 今にも崩れてしまいそうなその塔の上部に、小さな人影が見えて。


「あ……」


 俺も細目で注視してみる。

 上流階級と見て取れる豪華なドレス。

 あれが母親、王妃様か。

 夫である王が逝去した後、隠居したと言われていた方だな。


「シャロ、今の君は昔の君だ、変わってしまった王女の……帰還だ」


 昔のようには行かないだろう。

 シャーロット・エレノアール・リードンセルクが起こした王国の蛮行は、諸外国にも広まっている。

 悪行は拭えない……人格が違うなど言っても、誰も信じないだろう。


わたくしは……ですが、父上を」


 それは紫月しづきが、なんて言っても意味はない。

 不治の病を患い、命を放棄して、人が変わったような所業で国を変えた。

 父を排し、母を追いやり、座った玉座は血濡れだ。


つぐなっていくしか無いさ、紫月しづきを呼んだのは君だ……それは変わらない事実だし、君が命を放棄して逃げたのも事実」


「はい」


「全部が全部、上手くいくには難しいだろうけど、でも紫月しづきのやって来た悪い政策はもう取りやめられる。徴兵ちょうへいで集めた人たちは、取り返しはつかないかもだが」


「そう……ですね」


 聖女の実験で改造された人たち、つまりは【死葬兵ゲーデ】を治すことは出来ないかもしれないが、それでもつぐなっていくことは出来る。

 【アルテア】には女神たちもいる。協力してもらえば、きっと。


「さぁ、まずはこの状況の説明をしないと」


「――それは!」


「ん?」


 シャロは胸に手を当てて、言い聞かせるように、決意するように言う。


「……いえ、ミオ様。それはわたくしの務めです、ミオ様は、ミオ様の戻るべき場所へ」


「……お、おー!?」


 思わず感心してしまった。

 責任は取ると、この城の有様も、かつてやってしまった悪行も全て、自分で背負うと言っているんだから。


「ま、いいんじゃないかな。協力はするよ……この城を壊したの俺だし」


 そこは俺の責任だ。

 紫月しづきとの相殺で破壊し尽くしてしまったしな。


「……ん?ミオ様、あちらを」


「え?」


 シャロはいぶかしむような視線を向ける。

 俺も……そちらを見ると。そこには複数の人集りがあった。


(俺の【感知かんち】に反応しなかった?)


 ガッ――と、俺の腕を掴むシャロ。

 腕を組むように接近して。


「――ミオ様、あれは【死葬兵ゲーデ】です!……そして、後ろにいるのは」


「ああ……見えてる。諸外国に行ってたんじゃなかったのかよ」


 その団体を率いるのは、紫月しづきの命令で諸外国へと行っているはずの、アリベルディ・ライグザール大臣、その人だった。

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