11−100【新世界で3】



◇新世界で3◇


 【リードンセルク女王国】の王都のド真ん中、この国の王家が住まう城のあった荒れ地で、俺は大の字で寝転んでいた。

 動けなかったのもあるし、気を失っている本物のシャーロットの事も気がかりだ。


 それに、どことなく違和感を感じるんだよな。

 仙道せんどう紫月しづきとの戦いそのものもだし、その後もだし。


「……」


 胸に手を当てて鼓動を確かめる。

 トクントクンと、静かに脈動をし、生きていることを教えてくれるが……この違和感の正体は何だ?


 紫月しづきとは最後の最後に、ほんの少しだけ理解しあえたと思う。

 あの子は、無自覚に【女神オウロヴェリア】の意識と共生してきた。

 転生と言えば転生なんだろうけど、それでも俺たちの転生とは少しだけ、ニュアンスが違うと思う。


 戦いの中での違和感も。

 紫月しづきは、どうして黒糸の魔物や黒の【オリジン・オーブ】を使わなかった。どうして【死葬兵ゲーデ】と呼ばれる不死の兵士を出さなかった。

 俺との戦いは、彼女の言う遊びなんだろうけど……それでも真剣な戦いだったと俺は思う。


「……あ。もしかして【死葬兵ゲーデ】は、城が消えた時に」


 起き上がり周囲を確認する。

 一面の地面は、クレーターのように凹んでいて、雨が降れば川にでもなるんじゃないかと思える広さだ。

 そう言えば、城の中にも【死葬兵ゲーデ】がいなかった。


「それか、大臣のどちらかが連れているのか……?」


 諸国に任務に出ているライグザール大臣。

 【ステラダ】に転生者を探しに行ったクロスヴァーデン大臣。


「よっと。シャロ、ちょっと身体触るぞ、セクハラは勘弁してな?」


 横たわるシャーロットからは【オリジン・オーブ】の反応がある。

 これは、アイシアと同じで体内に融け込んでるな。

 因みにミーティアの場合は、【オリジン・オーブ】そのものが足の代わりとなっている。セリスは装飾品として装備、リアは胸元にくっついてる感じだ。


「……力を使った気配はない。やっぱり変だ……紫月しづきは、どうしてそんな不利な事を?」


 手加減していた……?

 いや、そんな事はない。【女神オウロヴェリア】の力は存分に――


「……まさか」


 彼女は、自分の持てる力しか使わなかったのか。

 【女神オウロヴェリア】の権能である【破壊はかい】や【強奪ごうだつ】のオリジナルスキル、【滅壊めっかい】のような能力しか、紫月しづきは使用しなかったんだ。


「それに、黒糸の魔物や【死葬兵ゲーデ】を使わなかったのも……」


 そう考えれば、直接的なに俺を狙わなかったのも納得がいく。

 仙道せんどう紫月しづきは……自らの手で俺を殺すことを考えていた。だから、黒糸の魔物も【死葬兵ゲーデ】も、誘い込むための手段だった。

 そして黒の【オリジン・オーブ】自体は、己の力じゃないという事だ。


「なんでそこまで考えられるのに、悪い方に走っちまうんだよ」


 女王として、この場からは動けないから、だから手段を用いて俺を誘い込んだ。

 そして自分の力、【女神オウロヴェリア】の力だけで俺と戦った。

 女神の意思を封じ、本来のシャーロットを封じ、仙道せんどう紫月しづきとして。


「……ぅ、ぅうん……」


 苦しそうにしながらシャーロットが目を覚ます。

 そういえば、【反転はんてん】とかのダメージは残っているのか……だ、大丈夫だよな??

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