11−91【澪と紫月の巡り4】



みお紫月しづきの巡り4◇


「これでも押されるのかよ!ハンパねぇなぁ女神!」


 俺の愚痴は聞こえているだろうか。

 【女神オウロヴェリア】は、自分の存在を知らない。

 自分が神だと分からないまま、無自覚に振るう力は……罪の力だ。

 【破壊はかい】、【強奪ごうだつ】、【支配しはい】。

 少なくとも三つを知っているが、根源たる女神の能力の名は【滅壊めっかい】だった。


 となると、アイズたち他の女神のオリジナルスキルも、名前は違うんだろう。


「――んなこと考えてる場合じゃない!光よ……黒い意思を防げ!!」


 【無限むげん】、【零無れいぶ】でも防ぎきれなかった【滅壊めっかい】の威力には反属性、光が有効だなんて浅はかな考えだが。

 それでも威力は二つの能力で抑えられてる、後一息なのに……


「【超震光波ちょうしんこうは】ぁぁぁぁぁ!」


 黒糸の魔物を退けた光ならば。


「……意味のない足掻きを!」


 無駄な足掻きだってか!

 そりゃあ足掻くさ、アヒルも真っ青なほどに!!


「ぅおおおおおおおお!」


「くっ、私が――押され……」


 実戦経験は俺の方が上だ。

 昨日今日目覚めたような女神に……負けられないんだよ!


 だが、シャーロットの力も本物。

 それ以上に圧倒的な神力は、いとも簡単に【極光きょっこう】の光を塗りつぶそうとする。


 黒の上に何を塗っても黒になる。

 そんな力の塗硬めは、侵食という形で……ドンドン第二謁見場を崩壊させていく。


「ヤバイ……これ城だけじゃ済まないぞ!」


 城を消すと言ったが、シャーロットまでこんな威力の攻撃をしてくるとは。

 このままだと崩壊じゃあ済まない、確実に。

 城の人間たちは避難できているか、城下町の人たちは……俺、関与してないんだが!


「……ウザい、ウザいウザいウザい!」


 ゴォ――


「ちっ!なんで泣きそうな顔してんだよ!泣きたいのはこっちなんだよ!!」


 シャーロットは瞳に涙を浮かべていた。

 まるで子供、神秘的な女神様の容姿とは不釣り合い。

 だけど、これは紫月しづきという少女の……心の声だ。


「私の何が分かる!!お前が邪魔しなければ!私はアイツを殺せた!!……今だって、全部消えてしまえばいいのに!!邪魔しないでっっ!」


「知るかよそんな事!俺を殺して満足しとけぇぇぇぇ!!」


「――どうせ皆死ぬ!私を残して、皆居なくなる!あの時も、あの時もあの時も!」


 何が……この子は、いったいどれだけの時間と世界を。

 【女神オウロヴェリア】として生を受け、そして直ぐに抹消された。

 だけど今の台詞は……何度も何度も、傷付いてきた人間の言葉だ。


 何度も……転生してる。

 その度に、この子は裏切られ、傷付き、そして心に悪意だけを残して。


「……君は、どこまで!――【零無ゼロ・インフィニティ】!零に帰れぇぇぇ!」


 悪意だけを消し去ることは、不可能だ。

 きっとこの子は、記憶もない。だけど残っている、裏切られた悲しい気持ちと、傷付いた痛みと、そして……煮えたぎる復讐心だけが。

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