11−90【澪と紫月の巡り3】



みお紫月しづきの巡り3◇


 負の概念の集約、破滅と崩壊の究極。

 【女神オウロヴェリア】の権能が一つ……【破壊はかい】。


 全てを壊し、奪い、配する負の女神。

 【破壊はかい】、【強奪ごうだつ】、【支配しはい】。

 五つの内、三つを俺は所持している。


 その一つのぶつかり合い、引き合い。


「このっ!君はっ!!」


「私と同じ!?」


 俺の【カラドボルグ】に絡みつく黒い魔力と、シャーロットの手の平に集約される黒のオーラは、同一であるが違う……魔力と神力。

 その時点で、どちらが上かは明白だ。


「ならせめて!」


「……ちっ」


 威力で劣るのなら、速さでカバーする!

 俺は先手を打つために【カラドボルグ】を振るった。


 耳に違和感を残すような音を奏でて、【破壊はかい】の魔力は小さなマイクロブラックホールとなって飛翔する。

 技版の、【破壊デクトラクション】だ。

 普通なら、死を運ぶ完全壊滅の技だ……だが、相手はオリジナルの能力を持つ女神。


 そもそも効くのか、この子に。


「いけぇぇぇ!」


「飲み込め――【滅壊めっかい】」


 【滅壊めっかい】、それがオリジナルスキルの名前か。

 俺の【破壊はかい】のオーラは、シャーロットの手の平に吸い込まれている。まるで吸収し、更にその負の力を大きく整えて。


「……消えて」


「――【無限インフィニティ】ィィィィィ!!」


 シャーロットが指を弾く。

 それと同時に、俺は叫んだ。

 もう、抵抗できる手段がコレしかなくなった。

 神格を得た【無限むげん】……最大の手段であり最低限の手段。


 ぶつかり合い、魔力の火花が散り咲く。

 だが……


「飲まれる!これでも駄目かよっ!」


 スローライフを目指していた昔の俺が見たら、この展開をどう見るだろう。

 ラスボスのような存在と、こうして一対一で向かい合い、己の持てる最高の技で拮抗する。

 どっちが負けても文句無し、勝ったほうが正義……だったら、どれだけ良かったか。


 お生憎様さ、異世界はそんなに優しくない。


「――|【零無ゼロ・インフィニティ】!!」


 【無限むげん】を【反転はんてん】させた、主神が作った能力ではない、俺だけの能力……【零無れいぶ】。

 極限まで小さい数値に変動させるのが【無限むげん】であり、【零無れいぶ】は真逆、本当の意味でゼロ……無にするんだ。


 翳す手は血管が浮き出て、今にも張り裂けそうに震えている。

 魔力震動とかいう、自然現象らしい。


「……そんな力、どこで」


 これでもそんな冷静に対処できるのか。

 しかいぶかしむ。【零無れいぶ】がどんな能力か、探ってるつもりかよ。


「創ったのさ!アンタ等を生み出した、主神様のようになぁぁぁ!!」


「……意味がわからないわ」


 さっきから!お前はオウロヴェリアなんだろ!!

 抹消された最初の女神で、負の概念を一身に背負わされた、悲劇のヒロイン!

 どんな理屈か知らないが、地球で生まれ変わって紫月しづきと名乗り、今こうして初めて異世界に立って……


 初めて?


「――まさか!君は……自分がどんな存在か、分かってないのか!?」


 無自覚の罪。

 シャーロット、紫月しづきは……自分が女神だと知らなかった。

 力を持っていることは分かるんだろう、使い方も、用途も。

 だけど、存在自体が希薄であり、他の女神ですら知ることのない情報だ……生まれた瞬間に抹消された彼女が、知っている訳はないんだ。


 なら、その存在はなんだ。

 神がなんだって言う。俺が知るか。だけど……居るんだよ、その背後に。

 【女神オウロヴェリア】を愛し、慈しみ、最強の存在へと昇華させようとした……根本的なきっかけが。


 異世界を創りし、創世神。

 クリエイター気取りで、作りっぱなしの異世界を幾つも放り出し、無責任にも存在自体を放棄した……主神が。

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