11−88【澪と紫月の巡り1】
◇
大階段は静かだった。
誰もいない長い階段を一歩、また一歩と歩んでいく。
上がった先には、大理石で出来た大広間が視界に入った。
しかし、飾られている工芸品や絵画も一切なく、ただの空虚な空間が広がるだけだった。
「寂しいもんだ。これが三大国家の一つなんだな……」
帝国、公国、そして名を変えた女王国。
競い合って大きくしていけるのなら、それほどやりがいのあるものは無い。
だが、現女王は国政など一切考えてはいない。復讐、たったそれだけ、そんな物悲しい感情だけを以って、その対象である俺に刃を向けるためだけに……生きている。
『ミオ様、あちらの扉の先が……第二謁見場。王が、
「……いるんだな、あそこに」
『はい』
大きな扉の前にも、兵士はいなかった。
国の最大功労者である大臣二人もおらず、守衛すら配置していない守備で、堂々と歩いて来れてしまう。
兵士は、誰とも知らない少年の言葉を信じて撤退の準備……俺としては助かるんだけどな。
俺は大扉の前に立つ。
「そろそろ、城の外に出始める頃かな……それじゃあ、行くぞ!準備はいいな?」
「――はい。タイミングはお任せします」
シャロとの、ある
俺は扉に両手を推し当て、一気に。
「【
扉の大きさを、一気に縮小させる。
目にも見えない程の小ささに変わった扉は、まるで消滅したかのように無くなり、魔力の名残が霧となって広がる。
そして霧の中を歩き始めた俺の心臓が、異常な鼓動を開始する。
ドクン――ドクンドクンドクン。
ドックドック……ドクドクドクドク!
落ち着け、シュミレーションはしただろ。
悪意の言葉も対処した。前世の傷も平気。被害が出ないように城の人間も退避させた。そうさ、もう対面するだけだ。
「ふぅー」
小さく息を吐く。
緊張?怒り?恐怖?
まるで感情を
霧が晴れる。
第二謁見場は、白と黒のあしらいを施された綺麗な空間だった。
……一部を除いて。
「……やあ、久しぶり……が正しいのかな?」
玉座に座る、血に濡れた、漆黒の髪の女性。
周囲の血は昨日今日の血痕じゃない。黒く、濃い、消えない悪意のような。
前に見た時と髪色が違うな……でも、本人だ。
禍々しい
「……
その視線は、俺だけを見ている。
自分の血濡れたドレスなど一切気にせず、玉座につまらなそうに座り、俺を見下ろす――いや、見下しているんだ。
「今はミオ・スクルーズって言うんだよ、前世の名前はやめてくれないか?なぁ……
「……」
ブワァ!!と、負のオーラが溢れ出す。
なぁぁぁ!変な
「くっ、この力……やっぱり君は!アイズたちと同じっ!」
似たような魔力を感じた事がある。
これは神力だ。それも制限のされていない、正真正銘の神の力。
俺の予感は当たってる。最悪な方向で。
アイズレーン、イエシアス、ウィンスタリア、エリアルレーネ。
そして……抹消された最初の一人、オウロヴェリア。
「意味不明な事を」
意味不明だぁ!?
「ぐっ、ぐぐっ……お、押される!」
(神力で物理的に押されるとか!ふざけんなよ!)
【
そしてその負のオーラは、壁面に次々と
このままじゃマズイ!!
「……シャーロット!君の目的は……俺だろ!!だったら一対一だ、この城の連中や国の人間は勘弁してやれ!!巻き込むな!」
ブンッ――と腕を振るう。
【
シャアァァァ……と、晴れる黒のオーラ。
「かはっ……はぁ、はぁ……マジかよ」
引き攣った顔で確認すると、俺は扉の位置まで押し戻されていた。
俺も神に近付いていると、そうアイズたちに言われてるのに。
それなのに、たった一度腕を振るっただけでここまで魔力が持っていかれるとは。
心臓が痛い、手足が震える、思考が上手く行かない。
これが、【主神レネスグリエイト】が初めて創った女神の力。
桁が違う。これが本物、抹消されるほどの力を持った……女神なのか。
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