11−83【女王へ続く道2】



女王さいかいへ続く道2◇


 少しの時間歩き、この異臭にも慣れ始めた俺の視界に、上に登る梯子が見えた。

 あれがそうか?


「なぁシャロ、あの梯子」


『えっと、アレは多分……厨房に繋がっているはずですね』


「厨房か。そこから女王の場所には?」


『彼女の現在地にもよりますが、謁見の間ならば到達できるはずです』


 リードンセルク城は三階層だったな。

 謁見の間が一階、女王の私室は三階……だよな普通。


「上に続く階段がある場所、そこがいいな」


『はい。それではもう少し進みましょう……大階段近くの倉庫にも、地下から上がれる梯子があります』


「了解」


 平静をよそおってはいるが、心臓が痛みだしている。

 あの子が刺した心臓が、ドクンドクンと脈動して。

 刺された痛みではなく、動悸とか不整脈みたいな……そんな感じかな。


『……ミオ様は、どうしてここまでしてくれるのですか?』


「おっと、何だよ急に。勝手に心の中に入ってきた人が言うとは思ってなかったな」


 俺は笑いながら言う。

 しかしシャロは真剣に、申し訳無さそうに。


『いえ……わたくしの勝手で命を放棄して、そして成り代わった彼女は貴方様を執拗しつように狙っている。わたくしも彼女の中で長年見てきたからこそ、貴方様を狙う理由も……その意味も分かっているつもりです。ですから余計に……』


「余計に、あの子に関わる意味が分からない……ってか?」


『ええ。全部を無視して逃げることも、関係ないと決め込むことも出来たはずです……現状、彼女はこのリードンセルクに縛られています。仮にも女王という立場ですから、だから大陸を離れれば……』


 そうする事も出来ただろうな。

 でもそれをしたら……俺の大切なものたちは全部、滅びる。

 家族も恋人も、幼馴染も友人も仲間も、知り合った人たちも、大きくした村も畑も、そもそものきっかけ……この異世界が滅びる。


「そんな事をしたら、俺は俺を一生許せなくなる……それこそ、あの子のように復讐鬼になっちまうっての」


 それじゃあ意味が無い。

 そんな復讐の連鎖、無限ループをしてたまるかよ。


「俺は、この世界に来れてよかったと思ってる。だから感謝こそしないけど、それなりの対応をしてやらないとな……って考えてるんだよ」


 それが、彼女を救う唯一の方法なのではないかと。

 いや……救うだなんておこがましい。どちらかといえば、そう……解放かな。

 どんな経緯であれ、彼女はもてあそばれ続けたんだ……生まれて直ぐ主神に廃棄され、地球では男に騙され、その恨む気持ちが、この世界に戻って来てもくすぶっているのなら。

 ま、あの子が【女神オウロヴェリア】だったなら……そういう仮定だけどさ。


「だから、あの子も被害者だと、そう思えばいい。俺の死は貰い事故……運が悪かったんだよ。結果としてこの世界で最高なんだから、俺は許す」


 そう考えればこそ、止められるのは俺だけだ。

 あの子の晴れない怨嗟えんさは、同じ存在……主神に最も近い俺だからこそやらなければならない責務。

 この世界を守って行く覚悟を決めた俺の、生涯の仕事だ。

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