11−82【女王へ続く道1】



女王さいかいへ続く道1◇


 煉瓦レンガで作られた城下の町並み、地下も同じで統一感があった。

 けれど、悪臭は酷い。本当に……酷い。


「くっ……せぇぇぇ」


 直球の感想だ。

 嘘偽りのない、真っ直ぐすぎる感想。

 いくら国一番の都でも、下水は当たり前に臭い。


『この地下下水道は、【リードンセルク王家の避廊ひろう】と呼ばれる、大昔から戦時に使われていた退避路です。最近はもう管理されていないようで、匂いはそのせいではないでしょうか』


「管理するしないの問題じゃない気がするが。奥……でいいんだよな?」


『はい』


 王族が逃げる為の道か。そりゃあ当然用意されているよな。

 入口も封鎖されてたし、実際に使われたのはそうとう昔……下手をすれば百年規模だ。


「それにしても狭いな、公国の地下はありえないほど広かったけど」


 公国の地下は転生者がしつらえたらしいし、当然っちゃあ当然なんだが。

 それでも【アルテア】で作ってる途中の地下より酷い有様だ。

 臭いもそうだが、耐久面とか衛生面とか……諸々もろもろな。


『えっと確か、次を右に』


「確かて」


 先行き不安になるんだが。

 言われるままに、シャロの案内で進行する俺。

 しかし感じるのは、寒気を覚えるほどの感覚……【感知かんち】だ。


『ミオ様!あちらを!』


「……見えてるし感じてる。黒糸の魔物か……やっぱり何処からでも発生するんだな」


 【カラドボルグ】を具現化し構える。

 つばには【極光きょっこう】の宝石をセット、お祓いの時間だ。


「邪を払え!【超震光波ちょうしんこうは】!!」


 カッ――と眩しく下水道を照らし、【カラドボルグ】から発生した光は黒糸の魔物を消し去る。やってしまえば一瞬。

 物理的にはダメージを与えられないが、こうした魔力での攻撃は通用する。

 問題は、それが出来ない人たちの対処法か。


『……紫月しづきさんの思い、なのですね』


「そうなんだろうな。これがあの子の……負の感情、殺意、悪意、復讐心」


 何があれば、そこまでの思いをこじらせるのか。

 何をされれば、そこまでの激情で行動できるのか。


 復讐の動機なんて幾らでもある。

 だけど彼女は俺を刺して殺した……その時は確か、そうだ――痴情のもつれ。

 俺は手違い……通行の邪魔だという理由で刺されたんだったな。


「考えてみても、意味不明なんだが」


 だけど、思いのほか……怒りはない。

 それもコレも、きっとこの世界で手に入れたものが大きすぎて、俺はもう許しているんだと思う。


『彼女を止めることが出来たら、わたくしにもつぐないをさせてほしいと思っています……』


つぐない?シャロが?ははっ……なんでだよ」


 歩き出す。


 一歩一歩、その時は近付いている。

 あの子は俺を狙ってる。それだけは確定であり、そして俺はそれを良しとしない。

 俺だけを狙いのならそれでいいが、俺の周囲やこの世界の人たちを巻き込むやり方だけは、許しちゃいけない。

 俺は、俺を殺された怒りよりも……そっちの方が嫌なんだよ。

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