11−81【悪神の声は心を殺す4】



◇悪神の声は心を殺す4◇


 話は済ませた。

 もともと、今回は様子見の予定……そこが大幅にズレて、ウィズの神格化なんて後半のイベントを、現段階で発生させてしまった。

 それがなければ今頃俺は廃人になっていてバッドエンド、あの声は……それ程までにヤバイ呪法だ。


「あの怨み節、結構な範囲で出てたよな?」


『はい。あれは彼女の力……魔力によって負の感情を拡散し、少しでも似た感情を持つ人物に声を届ける。そしてその声が聞こえたら……』


 ああなるのか。


『幸い、威力は大きくありません……南方に感じる結界より先には、届いていないでしょう』


 あの声だけは、防ぎようがなかった。

 咄嗟とっさとは言えだ、神格を得ている能力を持つ俺を、廃人寸前に追い込んだ声の力……つまりは同等なんだから。


「そっか、それが聞けただけでもよかった」


 結界は【ステラダ】から。ミーティアとセリスの【オリジン・オーブ】によるものだ。つまり、【アルテア】にも被害はない。

 しかし他の町や村は、きっと被害が出ているはず。北や東西の他国にも。

 他の国にも転生者や実力者は大勢いる……そうなれば、女王国がしでかしたことだと直ぐに広まる。


「少し急ぐか……【紫電しでん】!」


 空を飛んだらまたあの悪意の声が聞こえるかも知れん。

 それはもう嫌だし、正直言って怖い。

 もう油断はしないし、食らうつもりもないけどな。


『【王都カルセダ】には下水から王城に入れる隠し通路があります!そこからなら、誰にも知られずに侵入できるでしょう』


 そこまでするつもりは……いや、見ておくのもアリか。

 敵情視察は入念にするべきだし、今できるのも俺だけ。

 それにシャーロット……あーややこしいな。シャロとでも呼ぶにして、シャロから得られる情報はかなり役に立つ。


「シャロ、王城の構造は把握してるのか?」


『シャ、シャロ……ああそう言うことですね。はい、勿論です……わたくしが寝たきりになってから、改装もされていないはずですので』


「オーケー、じゃあ行くぞ!」


 【紫電しでん】の高速移動で【王都カルセダ】へ向かう。

 黒糸の雲に襲われた【パノメ】は……多分、酷い有様だ。

 王都に一番近い町、それと王都の城下町とかは……同じだろう。




「見えてきた、流石に王都……城壁もデカいし、山のような斜面になってるんだな」


 西洋の作品でよく見る傾斜けいしゃだ。

 坂と壁、自然の防壁だ。

 【豊穣の村アイズレーン】や【ステラダ】、【アルテア】は平面の土地だ、この【王都カルセダ】は、それに比べたら確かに攻めにくそう。


「こんなに守備にてっしてるのに、どうして攻め込むような真似をするんだ」


 考えられるのは、紫月しづきという少女は戦いや争いについて素人。

 クラウ姉さんもそうだったけど、ファンタジーにうとい可能性だ。

 それか……国の事など微塵みじんも考えていなくて、自分の復讐を果たす為に、その為だけに行動をしているか。


『ミオ様。西の城壁近くの水路に、隠し階段があります……そこから下水を通って、王城に入れるはずです』


「……」


『……ミオ様?』


「あーいや。なんでも無いよ」


 また下水に行くのか。

 しかもここは、ミーティアが汚水を凍らせてない。

 つまりは鼻が曲がる。気が滅入る。

 しかも一人、ウィズの声ももう聞こえない……いるのは、因縁と言うべき相手の身体の、元持ち主……はぁ、どうすんのコレ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る