11−80【悪神の声は心を殺す3】



◇悪神の声は心を殺す3◇


 俺が知ったのは、現在の女王……シャーロットが転生者ではないという事。

 しかし、彼女は紛れもなく日本人だ。

 しづき……紫月しづきと書くと思うが、本来のシャーロットに取って代わった精神は、確実に俺を狙っている。

 実に厄介な話だし、それを解決しなければ、きっとこの世界は混沌になる。


「なぁ君、君はなんで俺に助けを求めたんだ?」


 さっき、初っ端の声がけは「助けて下さい」だった。

 助けるも何も、こうして俺の心の中に入り込んでると言う事は、あっちの女王からは抜け出せたって事じゃないのか?


『――この国を、【リードンセルク王国】を守る為です。今はもう女王国と名を改めてしまいましたが……』


「助けるって言ってもな。だって君は、放棄したんだろ?生きる事……病と戦う事を。それをさ……立場や人格、身体を盗られてから言うのは、ちょっと都合が良すぎるんじゃないか?」


 キツイ事を言うが、理解は出来るんだ。

 本来のシャーロットはきっと、治療法もない、後先のない病気だったんだろう。

 絶望し、自分から死を望んでしまって、そこをあの紫月しづきという子につけ込まれ、精神体となって今に至る。


『……それは、すみません』


 顔は見えないが、シュンとしたのは伝わる。

 もともとは責任感のある少女だったんだな……でも、動くこともままならなければ、行動も出来ないし心だって弱る。


 俺は短く嘆息し。


「はぁ……まぁ女王の目的は俺だし、放置するつもりはないよ。別に君を助ける訳じゃないし、この国とか……正直言ってどうでもいい」


『そ、そんな!!』


 だけど。


「……ただ、俺の周辺を脅かすのは看過できない。俺が管理する【アルテア】は、三国の国境間にある少し面倒臭い場所だ……そしてそこは、女王国の領土でもある」


 既に女王国の人間も、大勢住んでいるんだよ。

 その人たちも、始めは厄介な人(【ステラダ】の移住民とか)も多かったが……今はもう大切な、俺の守るべき人たちになっている。


『それって……まさか』


「だから、【アルテア】に害が及ぶなら、必然的に守らなくちゃならない。君に言われるまでもなく、俺は戦うつもりでいたんだよ」


『!……で、では!』


 別に、この子の願いを聞くんじゃない。

 俺は俺の因縁に、決着をつけたいだけなのさ。


「今回はあくまで、偵察と言う名目でこっちまで来てる……あの悪意の声にやられなきゃ、こうはならなかっただろうけど……君との出会いは無駄にしない」


『……感謝します』


 この本来のシャーロットは、命を放棄した事を悔いている。

 責任から逃れて、報いを受けたと……それが今の女王だ。

 俺を殺したあの子はきっと、俺と等しい存在。

 いや……存在自体がこの世界の深淵であり、触れてはいけないタブー。

 そして悪意の塊であり、感情に忠実で執拗な……復讐鬼だ。

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