11−79【悪神の声は心を殺す2】



◇悪神の声は心を殺す2◇


 シャーロット・エレノアール・リードンセルク……だぁ?

 ウィズが面白みのない声真似でもしているんじゃないだろうな。


『お聞き下さい!わたくしは……』


「ちょっと待て。お前ウィズじゃないのか?」


わたくしはシャーロット・エレノアール・リードンセルク!【リードンセルク王国・・】の、姫です!!』


 それはさっきも聞いたが。


「でも声が違う。あの姫、女王はもっと……深く執念深い思いを乗せてた、アンタからはそれを感じない。そもそも、別人のように……」


『――そうです!!』


 だぁぁぁ、声でかい!

 脳に響くわっ!!


『すみません!!生憎あいにく、長年とこに伏せていたもので……実際の声の出し方も、分からなくて』


「?」


 そういえば……昔ミーティアに聞いたことがあるな。

 復活したシャーロット王女は、不治の病だったと。

 女王に成った今、聞こえてくる噂とはまるで別人。


 なにせ強制徴兵ちょうへいをし、聖女の実験を許可し、今に至っては近隣の小国を取り込んで戦力を整えている……と言う噂。

 そんな女王の噂と、この声の主――まさか。


「もしかして、転生前の……本物?」


 考えた事は何度もある。

 転生者が生まれ変わったと言うことは、元の人間がいたんではないかと。

 スクルーズ家に、ミオ・スクルーズと武邑たけむらみおの事を話した時は……皆、信じてくれたけど。


『……そうです。今のシャーロットは、紫月しづきという女性で。わたくしが命を放棄した時に、代わりになってくれた方です……』


「しづき、それがあの子の名前か」


 俺が死んだ後、どうしてあの子がこの世界にいるのか。

 転生者はクラウ姉さんが最後。それはアイズも、他の女神も断言していた。

 じゃあ、そのしづきって子はなんでこの世界にいる?……しかも、まるで神のような権能を持っているかのような力まで。


 自惚うぬぼれでも何でも無く、今の俺をあそこまで簡単にやっちまえるのは……女神でも難しいはずだ。


『彼女は当初、わたくしに成り代わって……父と母に、国に貢献してくれると思っていました。けれど、彼女は……』


「ああなった、と」


『はい。わたくしの我儘が招いた……罪です』


 死を目前にした本来のシャーロットは、願ってしまったんだ。

 代わって欲しいと。

 そこをつけ込まれたんだな、地球から……何らかの手段でこちらに来た、しづきって子に。そして、その子の目的は……十中八九。


「……はぁ〜〜〜あ、俺……だよな」


『――はい。彼女には何度も何度も声をかけましたが、最近はもう……声が届かなくなって、今はもう……わたくしが追いやられる一方で』


「ん?……そう言えば君は、どうして俺の中に?」


 まるでウィズだ。

 でも、この子はこの世界の住人であって、転生者でも能力でもない。

 突然俺の中に入り込んで、やってる事……そのしづきって子と同じじゃないか。


『そ、それは……彼女が使用した負の魔法に、わたくしの意識を乗せて』


 それであの声に入ってた……そういう事?

 よく俺にピンポイントで入ってこれたな。


『……はい。彼女は……毎日必ず、ミオ……ミオ、ミオと。呪いのように口ずさんでいましたし。使用した魔法は、一番恨みのある人間に飛んでいく、そういうものでしたから』


「……厄介過ぎる」


 心の何処かで、もしかしたらと思っていた。

 もしかしたら、事情を聞いて説得して、そんな世界線もあるんじゃないかって。

 でも……そんな未来はない。

 俺とあの子の因縁は、前世で刺された瞬間からこうなると――違えようのない未来だと、決まっていたのかも知れない。

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