11−78【悪神の声は心を殺す1】



◇悪神の声は心を殺す1◇


 俺は立ち上がり、自分の身体を隈なくチェックする。

 結構な高さから落ちたんだよな……首、逝ったかと思った。


 サワサワ。


「ほっ……良かった、折れてない」


 ウィズのお陰で治ったとしても、もし背中が胸にでもなってたらどうしようかと思ったぞ――いや、それでもだ……こんな思いをしても収穫もあったはずだ。


「あの声、マジであの時の女の子なんだな……」


 声にでさえ、怨念のように込められた呪詛。

 前世で最後に聞いた声、「邪魔」……その言葉が脳裏をよぎる。

 そしてさっき聞いた声、「ユルサナイ」、か。俺がいったい何をしたんだって言うんだよ。


「それにだ……あの感覚。悪意だけを直接飛ばして来た、って感じだった。それが脳と心に直撃されて、廃人寸前……か」


 想像して、ブルっ……と震える。


 ウィズに将来のプランを説明した矢先。

 危ねえマジで、下手すりゃバッドエンドだった……けど、ウィズがこの場で実行するとは思わなかった。


「ウィズの奴、まさか自分で神化を行うとはな……【叡智えいち】に複数の能力をぶち込んで統合、【無限むげん】のような能力に昇華……結果、神の能力と同等のランクになる。それは即ち、神の誕生……だもんな」


 これで、アイシアとウィズの二人を新たな世界の神として擁立できる。

 目的だった、【女神オウロヴェリア】の能力集め。

 最大五つの、【破壊はかい】や【支配しはい】、【強奪ごうだつ】といった物々しい能力。

 それらがなくても、今の俺なら……って事だ。


 それに、【女神オウロヴェリア】はきっと……この世界にいる。

 これは自分が神格を得た能力を所持しているから、分かることだと思う。


 そしてそれは、おそらく俺の因縁。


「だけど、これではっきりした……俺が本当に向き合うべきもの。前世からの悪運……晴らしてやるよ」


 北を見る。【王都カルセダ】は、もう目と鼻の先だ。


「っと、その前にあの雲だ」


 ここら一帯はウィズが蹴散けちらしてくれたみたいだけど、まだ全然広がっていきそうだ。

 俺が受けたあの声、あれが聞こえてしまえば、もう落ちるしか無い。

 廃人寸前に落とされて、糸の切れた人形のようになってしまう。

 自分がそうなりかけて、余計にヤバさが分かる。


 悪意を受けて豹変、暴れてスッキリするくらいならどうとでもなるが……これは違う。これは単純に、人を殺められる。

 あの声を聞くだけで、それだけでだ。


 なんとかしなければならない。

 そう思い、足を【王都カルセダ】へ向けようとした瞬間……脳内に。


『――やっと繋がりました!た、助けて下さい!』


「だわぁ!!……ウィズ、じゃない!?誰だっ!!」


 心臓が飛び跳ねた。


『わ、わたくしはシャーロット……王国の姫、シャーロット・エレノアール・リードンセルクです!!』


「……は?」


 因縁がそちらから歩いてきた。

 そうとも取れるが……違和感しか残らない邂逅かいこうだった。

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