11−39【血に残る遺産7】



◇血に残る遺産7◇


 サクッとした食感に、鼻から抜ける香り。

 午後のお茶会がベストとは言うが、それも納得も出来るリラックス効果だ。


「――一番始めの報告は、【ステラダ】からかなり北だな。【パノメ】という小さな町だ、それから南下していき、【レバメール】、【ルーグタル】、【ステラダ】だ」


 サクッ――とクッキーをかじり。


「そして【アルテア】か」


『――ミオ、【リードンセルク女王国】内の分布が終了しました。その観点から見て……【アルテア】内の暴走事件は、王国領が最多で発生していたと判明しました』


「……やっぱり」


「どうした?」


「この騒動は、【アルテア】でも王国領内だけが特別に多い回数、起きているみたいです。帝国、公国では数えるほど……それも、王国の人が移動した際のものですね」


 ウィズの情報と先輩からの情報。

 それらを合わせて見えてくる……この騒動は、王国が起因だ。

 だとすれば黒の【オリジン・オーブ】の所持者は、王国の人間か。


「……俺にも、深くいきどおりを持つ対象は居る」


「坊っちゃん……」


 しかめっ面で、拳を握るロッド先輩。

 多分、その対象は……父親だろう。

 孫であるイリアを認めず、闇ギルドに売ろうとまでした貴族だったな。

 確かロッド先輩が様々な不正を追求して、追いやったと……


「あの時、もしも父がまだ【ステラダ】の屋敷に残っていたら……俺はあの男に何をしたか分からん。騒動を起こした人物たちの気持ちを、分かってしまうんだよ」


「ロッドさんは正しい事をした。あのままでは【ステラダ】で横暴を働く悪楽貴族に、クレザース家は成り果ててしまいますよ」


「しかし、この思いは本物だ。果のない怒り、抑えられない衝動……それが爆発して、ああなる・・・・


 ロッド先輩は【ステラダ】でも見てきたんだ。

 暴動に近い騒動を起こしてきた、街の人たちを。

 自分もああなるのではないか、衝動にかられて間違いを起こし、人生を棒に振るうのではないか。


 不穏に見えるほどの影を落とす先輩に、イリアは胸に手を当て言う。


「坊っちゃんは、私たちがいない間に【ステラダ】を守ってきてくれました!多くの貴族が【王都カルセダ】に移っても、あの徴兵ちょうへいで傷ついた人たちを救ったのは、坊っちゃんです!」


 血に呪われ、存在をうとまれ、多くの人から蔑視べっしされる。

 そんなハーフエルフであるキルネイリア・ヴィタールを守ろうと、一時期は少し手荒な手段を取った。

 だがそれも、イリアがこの過酷な世界で生きる為に、自分を悪として盤上に置いた行動。

 それが出来る人間……ロッド・クレザース。


「――ロッドさんに王国領を任せて正解でしたよ」


「な、何だ急に……俺は不満を漏らしているんだぞ?」


「いいんですよそれで。周囲に声をかけてくれる人がいて、その人は心底信頼が置ける家族だ……それ以外にも、間違えば正してくれる人間が居る。だから進める、だから強くなれる。ロッド・クレザース……あんたは上に立てる人間だよ」


「スクルーズ弟……」


 いい加減名前で呼ばないか、まぁいいけどさ。


「今後もよろしく頼みますよ。王国領を完全掌握・・・・したら……先輩は公爵の予定なんでね」


「「!!?」」


 俺の言葉に驚きを見せる二人。

 やっぱり家系だな、似てるよよく見れば。

 そして俺は帰る準備。話は分かったし、個人的に合点がいった。

 その時点で、解決策は一つしか無いんだ。


「それじゃ!」


「おいスクルーズ弟!今のはどういう――」

「ミ、ミオ!ちょっと話を――」


 パシュン――と、俺は【転移てんい】で消える。

 宣言をした以上、俺は揺るがない。

 一年前に見せた弱気な俺はもう、いないんだからな。

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