11−36【血に残る遺産4】



◇血に残る遺産4◇


 春に【ステラダ】から連れてきた多くの人材。

 それは、俺が短期間だけ学生をやっていた時の繋がりだ。


「お前あんだけの事が出来んなら、学生なんざする必要ねぇだろ」


「いきなり唐突過ぎる事を言うんじゃねぇよオッサン……俺だって徐々に出来るようになってんの。始めからやれてたら、今頃世界征服してるっつの」


 無精髭ぶしょうひげを擦りながらそんな事を言い出すグレンのオッサン。


「ぶはははっ、世界征服か、そりゃあ良い!」


 勿論そんな大それた事をするつもりはない。

 そもそもガラじゃないよ世界征服なんて。

 悪役を気取る気概もないからな、俺には。


「オッサンは何してんだ?またイリアの様子を見てんのか?」


「……まぁな。イリアがまともに仕事が出来んのはミオガキのおかげだ、それでも心配にはなるさ。それでなくても国による徴兵ちょうへいが起きていた時期は、俺たちは蚊帳の外だったからな」


 徴兵ちょうへい期間があった一年近く、多くの町では今オッサンが言ったように、閉じこもるのが正解だった。

 【ステラダ】ではオッサンの図書館、ロッド先輩の屋敷で、住人たちを保護していたらしい。あとは【カルバルート医院】とかね。


「春にミオガキとミーティアの嬢ちゃんが来てくれて、国の兵士たちが引き上げただろ?」


「ああ」


 春の小旅行の時だな。

 【ステラダ】と【カレントール】を二人で。

 その時の詳細は……まぁ機会があればどこかで(リバースストーリー)。


「ミオガキがこの【アルテア】に来いと言ってくれたこと、多くの【ステラダ】の住人は感謝してるさ。しかもほぼ六割近くの施設をそのまま移転までしてくれてる、それなら【ステラダ】から越してきて、そのまま営業できるからな」


「批判もあったけどな。【アルテア】は最優先で人手を集めなきゃならなかったし、好条件を突きつけて無理矢理……そう言われても仕方ないよ」


 住む場所に仕事場、施設そのまま移転までして、その場所の良い所を根こそぎ奪った。パクリと言われれば返す言葉もない仕業さ。


「だが、【ステラダ】の住人は多くが受け入れた。それは王国……じゃなくて女王国のやり方、自国の未来に不満を覚えたからに他ならない。何を言われても、ミオガキの行動は支持されるさ……誰だって、生きたいんだからな」


「オッサン……」


 今や三国の人間が、毎日のように移住を希望して訪れている。

 特に【リードンセルク女王国】に不満を持った国民の訪問は後を絶たない。


「デカけりゃ良いってもんでもないが、それでもこの町……いや村か、この【アルテア】は今後もいい場所になっていくだろ。それこそ、この大陸のド真ん中にあるんだ……人は集まりやすい」


「それは、そうだな。今も続々増えてるよ……女王国に不満を持つ人たち、帝国皇女を信望する国民、公子ルーファウスと公女レイナを御旗に望む人たち……沢山だ」


 そしてそうなれば問題も増える。

 目下、黒の【オリジン・オーブ】の悪意。


「――おっと、クレザースの坊っちゃんが来たな……オレは帰る、じゃあな!」


「あ、ちょ!話を……ったく、イリアがいるからじゃねぇか」


 二階から降りてきたロッド・クレザース。

 その後ろには、ニコニコのキルネイリア・ヴィタールがいた。

 まったく、会っていけばいいのにな。

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