11−29【神の恩恵4】



◇神の恩恵4◇


 それを目にした【アルテア】の住人たちに、言葉はなかった。

 誰も発する事すら出来なかったのだ……その異常な光景と、神秘的なまでの演出、そしてミオ・スクルーズの神々しい能力に。


「……すごい」


 ここは【アルテア】東部に作られた、エルフ族が集まる場所だ。

 そして口を閉ざす者たちが多い中、語弊力のない感想を漏らすのは、エルフ族の近衛隊長……エリリュア・シュベルタール。

 ミオ・スクルーズがもたらしたその光景に心奪われ、呆然としながらも小さな感想を口にした。


「――能力を開花させたのですか、強制的に。しかも無害で安全に」


 エルフ族の女王、ニイフ・イルフィリア・セル・エルフィンも、常軌を逸した光景に声を出す。


「へ、陛下……」


 その異常性を認識している人たちは多くない。

 一般人なら尚更、戦いに縁のない人たちもそうだろう。

 冒険者や軍人ですら、感嘆の声を漏らす程度だろう。


「まるで神ですね、エリリュアちゃん」


「……恐れ多くて、口には出来ませんよ」


 元来、人に知恵や技術を授ける神。

 あがめられたたえられ、うたわれて歴史になる。

 その瞬間を、【アルテア】に住まう人たちは目の当たりにしたのだ。


「私たちの祖、【エルフェリーディア】様でさえ……いえ、【エルフェリーディア】様をご降臨させた、かのお方よりも……更に」


 かつて、異世界よりこの世界に他種族を招いた大いなる存在……その人物を引き合いに出し、ニイフ陛下は。


「はぁ〜〜〜あ。まるで今までの生が、この時のためだったかのような生き様ですねぇ」


 背凭せもたれに大きく身体を預け、だらしのない顔でそう言ってしまう。

 大きく吐くため息は、今までの生が何だったのか分からなくなったからだった。


「へ、陛下……」


 この場にいるのはニイフ陛下とエリリュア。

 それと護衛騎士ニュウ・カラソラドールともう一人、護衛騎士リドリア・ラタンテラだけだ。

 二人は女王のだらしのない顔を見ないように心がけつつ、投影機から映し出される光景を見ていた。


 そしてそれは他の場所でも。





 【アルテア】北部の王国領には、【ステラダ】から移住してきた人たちと、ミオが救った十万人の人たちが多くを占める。

 【ステラダ】と【カレントール】、【リードンセルク女王国】からの徴兵ちょうへいに抵抗をした冒険者や学生たちも、多く滞在している。


「スクルーズ弟……まさかそのような事まで出来るとはな」


おどろきですよね、坊っちゃん」


 王国領の代表を努めているのは、ミオの冒険者学生時の先輩である貴族、ロッド・クレザースだ。その隣には、メイド服姿のキルネイリア・ヴィタールもいる。


「お前は然程、おどろいているようには見えんがな」


「ふふふっ、ミオですから」


 その余裕のある姿には、ロッド・クレザースについてきた【ステラダ】の住人たちも安堵を覚える。

 ハーフとしてさげすまれてきた少女が、このような余裕の態度を見せるのだ。自分たちが動揺は出来ないと。

 だから真剣に、真摯に向き合うことが出来た……この光景から逃げること無く、おのがために、がために。

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