11−3【成人のクラウたち3】



◇成人のクラウたち3◇


 この男、ジェイル・グランシャリオことジェイル・オル・バルファウス・エルフィン王子……エルフ族の王子なのだが、ジルさん以外のエルフとは一向に会おうともしない。

 事が事だから理解も出来るが、当のニイフ陛下は許すと宣言しているんだ。

 そろそろ会ってもいいだろうに。

 まぁ俺が言っても、多分聞かないんだろうけどさ。


「会うつもりはない。仕事はきちんとしているのだ……構わんだろう」


「だからって会いそうになるたび逃げるなよ……この前はお義母さんを置いて逃げたろ?」


 「ぐっ」と唸るジェイル。

 置いてかれたお義母さんは笑っているが、車椅子なんですから助け求めて下さい。


「エリリュアさんも、従兄上あにうえに会いたいって言ってたぞ?」


「エリとの血縁はない。エリは女王方の血縁だからな。ジルとはあるが……」


「そんなの関係ないんだって、エリリュアさんがそう呼びたいならそれでいいだろうに」


 つくづく真面目だ。

 大昔に騙されてしまったのも、そういった面があったからなんだろうな。


「そういう訳にはいかん。俺は同胞を裏切った大罪人だ、そんな俺を家族だと……」


 それはもう聞き飽きたよ。

 この話題になればなるだけ、空気を壊すように口にする。


「そんなこと言ってたら、仕事中にたまたま会うことになったらどうすんの?それこそジルさんとあんたはティアを手伝ってるんだ、そうなりゃエリリュアさんにもニイフ陛下にも、いずれ絶対に鉢合わせするぞ?」


「その時は……」


「その時は?」


 俺とお義母さんはマジマジとジェイルを見る。

 何を言うのかね、このイケメンエルフは。


「……逃げる」


「――だから逃げんなよ!」


 ガクッと片膝を崩す俺。

 よく見たらお義母さんまで肩を滑らせていた、意外とノリがいいらしい。


「あのさぁジェイル、この【アルテア】は……良くも悪くも寄せ集めだ。それぞれ価値観や信念がバラバラで、まとめるのは一苦労なんだよ。俺も……去年は折れそうになったけど、皆がいてくれたからこうして乗り切れた。アンタもそろそろ向かい合うときじゃないのか?」


「……」


 苦虫噛み潰すってそういう顔なんだろうな……

 でも気持ちは分かるんだよ。アンタの気持ちも、ジルさんたちの気持ちもな。


「じゃあ俺は行くけど、ちゃんとお義母さんのことを送り届けてくれよ?エルフ族に会っても置いて逃げんなよ?」


「……分かっている」


 本当かよ。俺もやること多いんだ。

 もしも面倒事になるようなら、荒療治するからな。


 トボトボと車椅子を押すジェイルの後ろ姿を見ながら、俺は「やれやれ」と小さく溜め息を吐いて、家の中に入った。

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