プロローグ11−2【一年の報告を】



◇一年の報告を◇


 昨年の夏の終りから今年にかけて、ミオたちは目まぐるしく奔走した。

 まずは、十万の人たちの解放と村人たちの説得だった。

 手始めに魔力の寿命だった三十人を解放し、言葉を尽くした。

 別途一人ずつ、故郷に帰りたい者も居るだろうと言うことで、相談はいつでも受けるとその三十人に宣言し、その言葉通りにミオは、仲間たちの力を借りて彼等の言葉を聞いた。


 しかし結果、その三十人の故郷は自然消滅という形に至っていた。

 事の発端であるフェルド・ジュークの事すら記憶はしておらず、事を荒立てる必要性はないと口を閉ざした。

 その代わりに、ミオを始めとした中心メンバーの説得もあって、村の人たちはこころよく受け入れてくれた。


 嬉しい誤算だと、ミオは心から嬉しかった。

 責められる覚悟もしていたミオだが、蓋を開ければ答えは簡単。

 ミオは転生者としての能力をフル活用し、【無限むげん】と【豊穣ほうじょう】を村全体にふんだんに使用した……建物も、草木も、畑も川も、生活環境を整えるまでに、そう時間はかからなかったのだ。

 そうして少しの時が経ち、第二陣となる魔力の寿命……百人超の人物を解放。


 同じように接し、その都度報連相ほうれんそうを熟して、ミオたちは結果、三ヶ月の時をかけて十万の人たちを解放したのだった。

 そうして冬、ミオは【豊穣ほうじょう】で品種強化した野菜を育て、冬でも大量の野菜が収穫できるようにした。

 家畜もそうだ。牛に豚、鳥や羊など、食用になる動物を積極的に育て、公国の協力者やセリスが連れてきた帝国の人たちと連携をして、十五万の村人が飢えないように、必死になって奔走してきた。


 仲間もそうだ。

 ミオは、冬に一度【ステラダ】へ向かった。

 【トリラテッサ】でのスカウトは、何もそこだけ終わらせるつもりはなかったのだ。


 本来、【冒険者学校・クルセイダー】が存在する【ステラダ】には頼りになる学生や、知り合った人物たちも多くいた。

 そしてその多くが、最近の女王国のやり方に不満を持っていた。


 例を上げれば……A級冒険者グレン・バルファート。キルネイリア・ヴィタールの叔父に当たるロッド・クレザース。冒険者学校の校舎を防衛したクラウの相棒ラクサーヌ・コンラッドなど、多くの人たちと交渉をし説得を掛け、村への協力を取り付けることに成功した。


 しかし直ぐには塔の村へ来ることは出来ない。

 個人での準備は勿論、グレン・バルファートは魔物図書の管理もある。

 ロッド・クレザースは【ステラダ】の貴族、ラクサーヌ・コンラッドに至っては、【ステラダ】に迫ってくる女王国軍の撃退を優先していたからだ。


 女王国と名を改めたリードンセルクは、増強を貫いていた。

 その中でも、僅かに行動を起こしていたのだが、それが【ステラダ】や【カレントール】など、反抗を見せた街への攻撃だった。

 ミオたちもそれは周知しており、援護できるならしたいと思ってはいた。


 それでなくても【ステラダ】から引き抜こうとしているのだ。

 ミオだったなら申し訳ないと思う事だろう。

 しかしその点でのみ、多くの村人から反対が出た。


 まだ当時は名も決まっていない村、反抗に加担してはと、不安の声が大きかったのだ。

 だから仕方なく、ミオは単独で行動をしようとしたのだ……なんともミオらしいが、その時にミーティアに見つかり、二人で小旅行よろしく【ステラダ】と【カレントール】へ向かった。


 その時にも出会いはあった。

 ミオが【冒険者学校・クルセイダー】に入学時話題になった、当時最年少の学生。

 その子が、【カレントール】を防衛していたのだ。


 カミュ・テレジアドール。

 当時最年少、転生者ではない彼女の異名は……瞬剣。

 彼女に協力して【カレントール】の防衛を強化し、ミオとミーティアは塔の村へ戻る。

 期間は三日程だったのだが、たったそれだけで、なんと村の名前が決まっていたのだ。


 大陸中央、三国の国境に存在し、混迷の時代を再生し世界を救う村。

 そういった思いを込めて――【アルテア】と。

 名付け親は女神たち。イエシアスを除く三人と、アイシアだ。


 これが、夏から冬に掛けての出来事。

 そして冬から春、特に大きい出来事は公国の問題だった。

 公子ルーファウスと公女レイナの二人を中心にしていた、公国の戦い。

 防衛に重きをおいていたルーファウスだったが、とうとう攻め込むことを決めた。

 公国の遠征軍が主体となり、国の首都……【フィドゥンパーウ】を攻めた。


 ミオやクラウも協力はしたが、やはり公国の人たちのルーファウスへの信頼は凄まじかった。

 元を正せば、父親であるコルセスカ公爵の信頼が少ないのも起因しているだろうが。

 事の始まりである【ルードソン】からの攻撃、それを簡単にいなした事で周囲のルーファウスの評価は上昇していた。

 傍観ぼうかんを決め込みながらも、息子と娘を国賊と宣言した公爵だったが、日頃の行いか、それとも百年前の祖父の行為が仇となったのかは分からないが、国民からの信頼は皆無。

 それを如実に表したのが、臣下たちのルーファウスへの寝返りだった。


 それからは淡々と、ミオの出る幕もなく。

 実に数日……春を迎える前に、【フィドゥンパーウ】は陥落したのだった。


 そして春。

 【ステラダ】からグレン・バルファートやロッド・クレザースが【アルテア】に参加した。【カレントール】からも、心強い味方が揃ってくれる。

 少数だった王国所属の村人が、多く増えたのだ。


 ・A級冒険者グレン・バルファートやフリーの冒険者たち。

 ・子爵ロッド・クレザースとその家臣。

 ・元・【ギルド】職員、すなわち元・【リューズ騎士団】の面々。

 ・【ステラダ】の住民半数以上。宿の従業員や【ステラマーケット】の店主。

 ・【冒険者学校・クルセイダー】に通えなくなった学生たち。


 様々だ。

 もし、これがあの日の夏に同時に行われていたら、ミオは間違いなく逃走していただろう。


 帝国、公国、そして王国。

 国境の村【アルテア】に集結した総数は……計十八万にも及んだ。


 そして、また夏が来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る