第11章【少年期を終える時】後編

プロローグ11−1【再びの夏】

※今回は今章中に一年の経過を示す会話を多く入れ組む予定なので、10章のサイドストーリーまたはリバースストーリーの予定はありません。

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◇再びの夏◇


 ミオ・スクルーズが迷い、悩み、仲間の言葉を受けてその重荷を下ろした夏の終り。時は進み、秋冬、そして春を超えて――季節はまた夏になった。

 つまり、あの日から丸一年の時が経ったのだ。


 これは塔の村……今や【アルテア】と呼ばれる村の、世界一へ向けた歴史の始まりである。


「……改めると、凄いことになったんだな」


 ミオ・スクルーズ。

 十七歳となった彼は、この【アルテア】の最高責任者だ。

 【無限むげん】で作ったこの場所は、【アルテア】を一望できる高台。

 最近は何故か、カップルに人気のデートスポットになりつつある……ミオ本人からすれば、何故そうなったのかは未だに謎だった。


「なに黄昏たそがれてるの?」


 ミオの隣にはミーティア・ネビュラグレイシャーがいる。

 この一年、常にミオのかたわらに居続け、誰もが彼女とミオの関係性を認識しているはずだ。


「いや……景色を見にさ、皆が夜とかこの場所に来てるんだなって思ったら、都会を思い出して」


「ふぅん……でもこれよりもっと凄いんでしょ?」


「ああ!」


 ミオはミーティアの肩を寄せ。

 指差しで、広大に広がる村の範囲を示す。


「ほら、あそこら辺はまだ緑があるだろ?」


「うん」


「地球の町並みは、緑が見えないくらいには建物だらけで……あそこもあっちも、全部が建造物のような感じでさ。大人数を乗せて空を飛ぶ乗り物に鉄の車、夜も明かりが消えない眠らない街……今の【アルテア】よりも、もっともっと大きいんだよ」


「凄いお話よね、ミオたちの世界の話って。想像もできないけれど……見てみたい」


 ミーティアはミオの身体に頭を預ける。

 ミオはその頭に指差していた手を優しく乗せて、撫でる。

 「ん……」とくすぐったそうに目を細め、身を任せた。




 時刻は昼過ぎ。

 二人は昼食を取っていたのだが、二人になればなるほど、このようにして二人の世界を作り上げてしまう。


「ふふっ……随分甘えん坊になったわね、ミオも」


 自分の膝の上に乗るミオの金髪を撫でながら、先程のお返しと言わんばかりに撫で撫でするミーティア。


「根本は甘えん坊なんだ。性根が赤ちゃんなのかもしれん……」


「こんな大きな赤ちゃんは要りませ〜ん」


「うふふっ!」

「はははっ!」


 芝生にシートを広げ、食べ終えたサンドイッチが入っていたバスケットが風に吹かれる。笑い合う二人は、もう立派な恋人だろう。

 そんな二人を見詰める三人の少女が居ることにも、動じない程には。


「まったく、隙あればイチャついて……」


「本当ですね、あんなんだから住人からも周知されるんです。もっと自重してほしいですね!」


「ライネは自分がやきもちを焼いてるだけでしょうに……」


 スポットらしく、テーブルに椅子まで常備されたこの場所では、こうして食事がもできる。三人の少女……クラウ、ライネ、セリスフィアも休憩中だった。


「そ、そんな事はないです!殿下だって、また久しぶりにこの村……【アルテア】に戻ってきたのに、いいんですか!?」


「何が?」


 テーブルに広がったお弁当箱をつつきながら、ライネはプンプンと二人の男女の様子を観察する。顔を赤くし、頬を膨らまして。

 一方で皇女セリスフィアは、余裕の笑みで返す。


「何がって……殿下はミオくんに好意があるんじゃ?」


「はぁ〜?私は……今もまだユキが好きよ。友人としてミオのことは大好きだけどね」


「だっ!」


 友達に“大好き”とまで使うだろうかと、ライネは眉を寄せる。

 そして二人に我関せず、クラウは。


「いい事だとは思うけどね。節度を守ってくれれば、別に口出しはしないけど」


 頬杖をついて、フォークで野菜を刺す。

 ザクザクと何度も。


「またまた〜」


「怒りがフォークに乗ってるわよ、クラウ」


「……」


 ジト目で二人を見るクラウ。

 この村に集った仲間たちも、一年半で打ち解けた。

 公国組は相変わらず防衛で忙しそうにしているが、協力体制は順調に出来上がっている。


「ほ、ほら……そろそろ村の人たちも休憩に来るわよっ。退散退散」


「あ、逃げましたよ殿下!」


「図星なんでしょ。弟を取られた可愛そうなお姉ちゃんだからね、なぐさめましょう二人で」


 クラウがサッサと退散する様を、二人は苦笑いで見る。

 しかしクラウが言うように、高台に人混みが見え始めた……村人たちだ。


「わわっ、早く食べないと――ミオくん!ミーティアっ!急ぎますよ!」


 ライネはお弁当を口に詰め込むようにして平ら、ミオとミーティアにも知らせる。

 二人は「ええ」「おう」と返事をして、片付けを始めた。


「……この人たち、あの十万人なのよね」


「あ、そうですね……多分」


 何気なくセリスがつぶやきながら見る人混み。

 それは、ミオがあの夏の終りに解放した……大陸中の小さな村や集落から集められた、十万人の人々だった。


 その中の一人が、セリスとライネに気付き手を振る。


「殿下〜〜〜!」


 と、幸せそうな笑顔で。


「あの子、この前まで元気なかったですけど……」


 ライネがそう言うと、セリスは笑顔で手を振り返す。

 あの子。まだ十歳にも満たない少女は、両親と共に魔力へ変換され、こうして開放された。両親ともに健在だが、故郷に残された友人たちの別れで傷ついていたらしい。


「それでも、強く生きていくことを選んだのよ……この【アルテア】で」


「ですね」


 十万の人々は、一割を除いてこの塔の村――【アルテア】に残った。

 住みたい場所は選択でき、帝国、公国、女王国の領土に自由にだ。


「――おっし、じゃあ昼からもがんばりますかね。セリスもライネもよろしくなっ」


 ミオがほがらかな笑顔で、二人にそう言う。

 二人も「うん」と返事をして……昼休みは終わった。

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