エピローグ10−4【復讐の繭2】



◇復讐のまゆ2◇


 この異世界【レドゥーム・アギラーセ】には、五柱の女神が存在した。

 しかし始まりの女神を知るものは、この世界に生きる人間にはいない。

 主神の負の感情をベースに生み出された彼女は、世界に悪影響を及ぼす悪神とされて消された。


 その後は他の女神も、主神ですら知らなかった復讐神の……真の魂は。


(憎い、憎い、憎い)


 闇の中、暗く空気のない、深海よりも深いその場所で。


(嫌い、嫌い、嫌い)


 復讐の怨念は生きていた。


(痛い、痛い、痛い)


 とある国の女王の中で。


(奪え、踏みにじれ、殺せ)


 身体から発せられるドス黒いオーラは、部屋中に満ちていた。

 赤子のように丸まり、宙に浮く素肌をさらした少女……シャーロット・エレノアール・リードンセルクは、己の内から滲み出る悪意を、形にしていた。

 心から生まれる悪意の糸、その発生源は……黒い宝珠――【オリジン・オーブ】だった。


 心を乗っ取られる前の病弱だった頃のシャーロットは……EYE'Sアイズだった。それも歴代のEYE'Sアイズを排出した家系、しかしシャーロットは病弱であり、EYE'Sアイズの負荷に耐えられなかった。

 だが、紫月しづきは違う。その強靭な悪意と……生まれ持った性質・・により、見事な適性を得ていた。


 とある悪魔の転生者。

 その研究熱心な男の悪魔は【オリジン・オーブ】を複製し、シャーロットに授けた。シャーロットは部屋に籠もり、黒の【オリジン・オーブ】を御するために負を込める。本物にも劣らぬレプリカを用いて。


 シャーロットはEYE'Sアイズであるが、幸いにもアイズレーンに近寄る事がなかった故、後継者に成らなかっただけで、おそらく神への適性は……六人のEYE'Sアイズ(ミーティアを除く)の中で最高値だろう。

 存在ではなく、力的な意味合いで。


(全てを壊し、尊厳を奪い、憎き相手を消滅させる、その身も魂も、二度と生まれ変わる事が出来ないように……)


 黒いオーラはシャーロットの全身を包み込み、まるでまゆのように覆い尽くす。


(……)


 細長い魔力の糸、それ一本一本に込められた負の感情。

 見えなくなり消えていく、その糸は何処へ行くのか……


(さぁ……思うがままに、奪い合いなさい……するがままに、壊し合いなさい……私の意思を感じた全ての人間よ……世界を壊す、終わりの始まりを――オウロヴェリアの名において)


 復讐のまゆから発せられるその感情は、国中に……いや、他国へまで散布され。

 目覚めつつある悪意の神は、その瞳を閉じる……そう、【女神オウロヴェリア】。

 主神に抹消された女神は、地球で生まれ変わっていた。


 仙道せんどう紫月しづき

 ミオとクラウの両名を殺害した少女は……神の生まれ変わりだった。

 復讐の神、抹消された神、世界を恨む悪意を振り撒く、この世界そのものを破壊するために、今はただ……眠るのだった。




~ 第10章【少年期を終える時】前編エピソードEND~

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 10章が終わりました。少年編、もう1章だけ伸びます。

 本当はここで終われるはずだったのですが、何故でしょうね(汗)。

 ミオが知らず識らずの内に抱えていた悩みを解決し、大きな存在となった村は、このままドンドン拡大する?

 11章は、また夏から始まる予定……ですが、一年経っての夏です。

 つまりミオは11章開始の時点で17歳に。

 冒頭や細かい所で、1年で何があったのかを書ければと思います。

 それでは、第11章【少年期を終える時】後編も、よろしくお願いいたします!!!

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