エピローグ10−3【復讐の繭1】



◇復讐のまゆ1◇


 三国国境に塔が出現した……あの日。

 今から四ヶ月前、王国は女王国へと名を改めた。

 シャーロット・エレノアール・リードンセルク……女王陛下。

 若干十五歳にして、その国の頂に立った少女。


 ただ一つの目的の為に、身勝手な悪意をぶつけるた為だけに。

 彼女は己の心を武器にする。

 復讐、憎悪、悪意……その負の感情はかてとなりて、シャーロットの力となった。


 現在……国の指針は増強と固まっている。

 実際に、ダンドルフ・クロスヴァーデン大臣が計画していた……隣国【テゲル】は既に従属を受け入れ、軍隊を女王国内に派遣している。

 まるで数年前の侵略行為(ミーティアを奴隷にしていた国)がなかった事になっているかのような協力体制に、当然批判が出たが、そこは二人の大臣が統制した。


 そして、聖女レフィルの行った【奇跡きせき】による人体強化だが。

 彼女のサポートをしていた人物が王女に情報資料を提供した事で、女王みずから継続……その負の感情で兵を強化するという手段を取った。

 これは、春先の南下で撃退された兵士たちの犠牲のおかげ……そう取る人物もいる。


 聖女レフィルの【奇跡きせき】とは違い、女王の負の感情は、まるで内なる力を発揮するかのように能力をオーバーブーストさせた。

 自由意識を保ちつつ、不死の力はそのままに……不死の兵は完成。

 しかし、その意識は全て……復讐心へ。


 誰もが少なからずその意識を持っている。

 その負の感情を増大させる事で、意識を持ったまま死を恐れない……肉体は【奇跡きせき】で強化され、あるじの復讐の為だけの命令に従う兵士。

 【死葬兵ゲーデ】……そう名付けられた。


 あの徴兵ちょうへいで集められた兵士たちは全て【死葬兵ゲーデ】へ調整され、シャーロットの意思と統一される。

 そしてそのシャーロット・エレノアール・リードンセルクは……




「陛下は?」


「部屋だ」


 この簡素なやり取りの会話するのは、大臣二人。

 ダンドルフ・クロスヴァーデンとアリベルディ・ライグザールだった。

 ライグザールの私室で、二人はワインを飲みながら。


「もう半月ですか。陛下がお隠れになって……いったい何がしたいのやら」


「まぁそう言うな、ダンドルフ殿。陛下がご指示した通り、【テゲル】は属国へと落ちた。それは貴殿が望んでいたことだろう?」


「……そうですがな」


 半月。お隠れと言われるほどに、シャーロットは姿を見せていない。

 女王の部屋に入り込み、今後の指示をしてから、一向に連絡すらなかった。


「南の件か……?」


 ダンドルフ・クロスヴァーデンは無言でうなずく。

 【リューズ騎士団】のおかげで娘の安否が知れたのはいい。しかし、あの塔は異常だ。


「あの巨大な塔、あれがなんだか分かりかねます……まるで山のようにそびえ立ち、街では天界へ登るものだと……そう言われておりますな」


 商人目で見れば、非常に興味がそそられる案件。

 観光名所、シンボル……その場所の目玉になる存在だ。


「部下等の報告によれば、あの場所は三国の国境……丁度その中央らしいな」


「そうですな。影からの情報は正確……既にあの塔には人が集まり、燃えたあの村の人間たちが中心となっているそうな。そして東国、【テスラアルモニア公国】の人間も集まっているとか」


 影とは、ダンドルフの密偵の事だ。

 ミオ・スクルーズに撃退された草原での戦いは、女王国でも周知だ。

 ダンドルの妻、マリータ・クロスヴァーデンを連れるために行われた作戦だったが、その女王国軍は……あの塔の周辺で消滅した。


「ふむ。その彼奴きゃつらに……撃退されたんだったな、あの人数の我が軍が、時間にして数時間で」


「ええ。しかも、戦闘が開始されてからは……一瞬で」


 ライグザール大臣が言う数時間とは、【王都カルセダ】から作戦を開始した時間であり、ダンドルの言う一瞬とは……ミオ・スクルーズに撃退された戦いのことだ。

 部隊の後方には、当然監視者がいた。その監視者が、こうして報告をしている。

 それはミオたち塔の面々も知っているだろう。その情報が筒抜けだということも。


「どうなされるおつもりなのだろうな、陛下は。南……此度こたびの帝国への侵攻、諸国からも苦情が届いておる。小国は、【死葬兵ゲーデ】の圧力でなんとでもなるが……」


「問題は帝国と公国。特に国境……あの塔」


「うむ。草を放つ準備はできておる……数ヶ月、忍ばせるのも手だぞ?」


「考えはありますよ。私も……家族があそこにいるのでね」

(あそこにはジェイルに連れ出されたマリータも、ミーティアもいるという……ことごとく、私から奪っていくのだな……ミオ・スクルーズ)


 こうして、大臣二人を中心としつつ。

 女王の不在を隠しながらも、女王国も着々と準備をしていたのだった……数年後に訪れる、その時のために。

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