エピローグ10−1【転生者だから】



転生者おれたちだから◇


 セリスとアイシアの【オリジン・オーブ】への魔力の注入は、時間がかかるという事で一旦保留。

 この事案が片付いたら、ゆっくりとやっていこうと思うよ。


「さぁて、それじゃあ十万人の命をどうするか、相談しましょうか!」


 セリスが高らかに言う。


「と言っても、もうやるしか無いんだろうけどなぁ」


「ふふふっ、そうね」


 と、ミーティアが笑った所でイリアが部屋に入ってくる。


「お、お待たせしました……」


 各人数に紅茶を置くが、冷めている。

 これはあれだな……気を使わせて入室出来なかったか。


「イリアごめん、変に待たせてしまった……」


 それからルーファウスとレイナ先輩も、クラウ姉さんも。


「ルーファウスも先輩もすまない……クラウ姉さん、ずっと俺の肩に手を置いてくれてて……ありがとう」


 何も言わなくても、クラウ姉さんの思いは感じていたさ。

 強く力が入り、逃げるなと、強く意思を持てと言われた気がしていた。


「……別に。わ、私は……」


 強い意思を感じた。自分がいると、傍にいると。

 それはミーティアやアイシアの感情とは違い、心配と信頼を兼ね備えた、家族特有のものだと思ったよ。


「そんな事ないよ、クラウ姉さんや皆がいるから……俺はこうして気付くことが出来たんだ、感謝してるし……これからもその気持を忘れない」


「そ……そう、いいんじゃない?それで」


 視線をそらして、クラウ姉さんはそっぽを向いた。

 素直じゃないな。

 そうして手を離し、クラウ姉さんはようやく椅子に腰掛けた。


 全員が席につき、合図のようにうなずく。

 するとルーファウスが、先程中断されたからか。


「……ミオくん。僕もセリスフィアさんと同じく、ミオくんには相談して欲しいと思いました。塔の村や公国の防衛の事……ミオくんは色々と協力してくれています。だから僕も、いえ……僕たちも。ね、姉上」


「だね〜。ま、ミオくんは私の後輩くんだし、ルーの友達だし〜」


「二人共……」


 視野を広く持てば、こんなにも頼もしい仲間がいる。

 今ここにいる人たちだけじゃない。ジルさんたちエルフ族やリア、公国の協力者たち、村の顔馴染みたちもだし、ノワさんやベラさんといった転生者も。


 俺が謎の感動を覚えていると、笑いながらセリスが言う。

 俺が知らない内に抱えていた悩みや不安を、具体的に言葉にして。


「ふふっ。それじゃあ話に戻りましょう……え〜っと、うん。まぁ早い話が、ミオの考えていた事。それは、転生者わたしたちにしか出来ない事に対して、知らず識らずのうちに蓄積ちくせきした住民たちのいきどおりや不満、猜疑心さいぎしんなんかが、今回の事で爆発するんじゃないかって思っていたのでしょう?」


「それも……まぁあるよ。全員が全員良い人、善人じゃないだろ?不満の種は絶対に大きくなるし、広がる。地球でもそうだったし」


 例えば政治。例えば軍事。例えば宗教。

 例えだしたら切りがない程、世界では当然のように行われている。


 俺の言葉に対しクラウ姉さんがうなずき言う。


「そうね。世界各地で、必ずどこかでデモとか起きていたし……村でも起きる可能性が出てくるもの。そう思えば、ミオが慎重になるのも分かるわよ」


「ありがとう。だけど……問題は時間がないことだ。この宝玉、タイムリミットが来たのは三十人」


 具体的な数字。

 宝玉を手にしたらよく分かる……超微細な魔力の振動は、怯えと恐怖。

 消えたくない、死にたくないと言う願望だ。


「えと……公国領は、正直言って場所が足りません、帝国領はどうですか?セリスフィアさん……あ、いえ。ライネさんにお聞きしたほうがいいでしょうか」


 ルーファウスが自分に任されている公国領の現状を報告。

 セリスに聞こうにも、セリスは今し方到着したばかりだ。


「そうね。私は……今来たばかりだし、ライネお願い」


「あ、はい。大変申し上げにくいのですが……三万の帝国臣民が訪れましたので……その」


 そうなんだよなぁ……


「……」


 細めた目で、セリスがタイミングの悪さに腕を組む。

 ヒクヒクと口端が引きつっている。


「あの……では王国領はどうでしょう?公国と帝国、両国に比べれば土地は余っていますし」


 言葉にしたのはミーティアだ。


「王国領か……確かに、今は責任者って形の人はいないから、勝手にやってもいいにはいいんだろうけど」


 王国軍が攻めてきた例がある。

 数ヶ月は大人しいが、俺たちが塔の村を王国領に広め始めたら話は別だ。


 それはセリスもルーファウスも同じらしく。


「……侵攻と思われかねないわね」


「ですね。それでなくても、二つの国が手を組んでいるんですから……僕たちはまだ、正式じゃあないですけど……あはは」


 出る杭は打たれるではないが、大きな事をしている自覚はある。

 だが女王国と名を変えた国は、数ヶ月静観状態である。


「火種になる可能性はあるな。あの王女……いや女王が俺たちに気付いたら……」


 シャーロット・エレノアール・リードンセルク。

 俺を殺した……あの少女。

 まだ確証はないが、予感はある……そしてその予感は、もう揺るがないものになりつつある。


「だからと言って、このまま放置はしないでしょう?」


「当然だ。もう決めたからな、皆のおかげで」


 問題はどうするか。その手段だ。

 村の全員が納得する方法はない。以下にトラブルを回避しつつ、十万人をどうするか……それを考えすぎてこんがらがってしまっていたんだ。


「なら考えは……一旦置いておきましょう。解決してから説得したっていいんだし、まずは目先の命よ」


「それはそうだが……衣食住が整ってないんだ。この宝玉が手元に来てから、少しずつ整えては来たけどさ、追いついてない」


 数が数だ。


「……そんなもの、能力でどうとでもなるでしょう」


 呆れるように、俺が選ばなかった選択肢を悠々と選んでくるセリス。


「それで俺が悩んでいたというのに……」


 頭を抱えたくなった。

 他の村人に配慮をして、自分たちで行動させると言う選択を迫ってきた俺と、真逆の答え。


「もしかしてミオ、エリアルレーネ様の言葉に引っ張られていない?」


「……否定は出来ないな」


 エリアルレーネ様は、人間性が駄目になるという理由で住人に自発性をうながしてきた。俺もそう思っていたから、極力【無限むげん】を始めとした能力を使用しないでいたのだが……


「そんな変な気遣いはいらないのよ、私たちには私たちにしか出来ないことがある……転生者なんだからね」


「俺たち、転生者おれたちだから……」


 なんとも簡単な事だ。

 気を遣いすぎた、そのせいで……俺の視野も狭まっていたのか。


「……説得は、あたしもするよ。ルーファウスさんたちも手伝ってくれますよね?」


 アイシアが言う。

 ミーティアもうなずいていた。


「はい!勿論です」

「うん」


 ルーファウスとレイナ先輩も。

 クラウ姉さんもイリアも、ライネも。


「ミオ、あなたにしか出来ない事を」


「あ」


 アイシアに言われた事を、他の皆も思っているんだ。

 俺にしか、転生者おれたちにしか出来ない事。

 それは能力。神に与えられた……神秘の力。

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