10−88【解決策4】



◇解決策4◇


 正直言って……図星だった。

 セリスに言われた通り、俺は――怯えていた。

 責任から、数字という暴力から、逃げ出したいほどに。


「お、俺は……」


 イリアもライネも、ルーファウスもレイナ先輩も、その言葉に驚いていた。

 クラウ姉さんですら声を出して驚くほどだ、普段からそれだけ、自信に満ち溢れているように見えてたのかな。

 だけど、そんな皆の中でも、俺の少しの機微に気付いてた人物がいた。


「「ミオ」」


「え?」


 俺の両隣、左右の手を取ってくれたのは。

 ミーティアとアイシアだった。


 手を取られて気付いた。

 俺の手は、めちゃくちゃ震えていたんだ。


「大丈夫よ、私たちがいるわ。ずっと一緒に、隣にいるから」


「そうだよ。さっきも言ったでしょ?ミオはミオの、やれることだけをすればいいって」


「……二人共」


 俺は――怖いんだ。

 十万人の命を背負うのが。

 村を世界一にするなんて大きな事を言っておきながら、その重さに、責任に押し潰されそうになっていた。

 今までは小規模だった。顔も名前も知っている身内、そんな狭い範囲での行動と戦いで、気が楽だったんだ。


 俺は自分の現状を理解し、それでも尚やらなければと、気をしっかりと保とうとする。しかし、両隣の少女二人は。


「平気なんて言わないで?いつでも頼ってくれていいの、私たちにそうしてくれたように、今度は私たちが……ミオの力になるから」


「うん。責任って言うなら……女神候補のあたしも、一緒に背負えるし。ほら、この前のお披露目だって、ミオはいなかったけどあたし、頑張ったんだよ?」


 二人は俺の心を見透かすように、すらすらと言葉を並べる。

 考えての言葉じゃない。心から思って、素直に口にした言葉なんだと、染み込む言葉が……優しい微笑みが。


「なるほどね……こりゃあ手を出せないわけだ」


「ちょ、殿下!?」


「??」


 セリスが呆れたように、両手を上げて降参のポーズをしていた。

 誰に対してのだろうと思ったが、ライネのリアクションを見るに……ミーティアとアイシアの二人なんだろう。


「ミオが慎重派だとは思っていたけど、それだけじゃなかったわ」


「そうだよ……俺は――臆病おくびょうさ」


 セリスが言いたいのはそうなんだろうと思い、俺は言う。

 実際俺はそう思ってるし。しかしセリスは首を振るう。


「違うわ、そうじゃない」


 まるで我儘わがままを言う子供だ……俺は。

 セリスにたしなめられながら、気落ちする心を必死に隠す。


「君は臆病おくびょうなんじゃない。ただ、背負おうとしているものの重さに耐えかねて……沈んでいるだけよ」


「背負おうと……?」


「うん、そうね」

「そうだね」


 セリスの言葉にうなずくミーティアとアイシア。

 俺が背負おうとしている?重さに耐えかねて、沈んでる?


「俺は――」


 俺が怯えていたのは、十万人の命。

 それを俺が抱えているという事実。

 そしてその十万の生命が、現行の塔の村に深くえぐりこむほどの影響があると理解しているから。


 俺が背負おうとしたのは……塔の村にいる住人たち。公国の協力者たち。そしてまだ見ぬ十万の生命。そして新たに訪れた、帝国の三万人。

 総勢十五万の、人の生命なんだ。

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