10−89【解決策5】



◇解決策5◇


 気付いてしまった。

 怖かったんだ……大勢の命を背負う事が。

 失敗したら失われてしまう、死んでしまう。


 責任なんて言葉じゃ表せないほどの、重圧。

 決して軽くはない、十万人以上の生命。


 塔の村の責任者となった時点で、背負う事を考えていた。

 【豊穣の村アイズレーン】の村民だけなら、身内で済む数ならどうという事はないと勝手に感じていた。

 でも違う。命は同じ……等しい存在だ。

 一人で背負い込む必要はないと、ミーティアにもアイシアに言われた。


 俺は一人で、孤独にやろうとしていたのだろうか。

 そんなつもりはないと言い聞かせて、“信頼はしても信用はするな”、“言葉を尽くしても心は尽くすな”……そんな精神で、他人に心を預けることをしてこなかったのかも知れない。

 今までの俺は――誰も信じてなかったのだろうか。




「俺は――きっと怖かったんだ……誰かの思いを背負うのが、命を背負うのが」


 もう既に、誰かの命を奪った自分だからこそ。

 勝手な思いを抱いてはいけないのだと。

 塔の村の全てを背負い、守っていく……そんな思い上がりを、自分自身で気付かずに鎖に変えて、縛り上げていた。


「皆そうよ、ミオだけじゃないわ。私も……アイシアも、でも」


 ミーティアの言葉にアイシアはうなずき。


「うん。あたしたちは、独りじゃないんだから。頼りはないかもだけどね、えへへ」


 アイシアは笑う。

 そんな事はない、ないさそんな事は。

 俺がどれがけ皆に助けられたか……


 二人の言葉を聞き、セリスが。


「力を持った者だからこそ、抱え込むものも大きくなる……ミオは特に、女神様からの恩恵をその身に受けている。だからこそ、自分が追い込まれていたことに気付かない」


「追い込まれて……」


 心が、身体が悲鳴を上げる。

 涙が出せないのに、視界がゆがむ。


「……もっと話して?ミオが思ってる事、やりたい事、全部全部、私たちがいるよ?」


「そうだよ、皆で解決していこ?」


「ええ、二人が言っているように。その為に私は……戻ってきたんだから」


 パチンとウインクをして、セリスは自信有りげに宣言する。

 その為に?俺はただ、無闇矢鱈むやみやたらに公国に抵抗して、数を持って来たのだと思ってた……実際は違うのか?


 そんな俺たち四人を、少し遠目から見ていた人物が。


「……ねぇ、そろそろこんな場所じゃなくて会議室に移動しない?立ち話で出来ることじゃあないでしょう??」


「「「あ」」」


「ふふっ、そうね!行きましょう」


 重くなった空気を変えるように、クラウ姉さんが言葉にしてくれた。

 その言葉通り、こんな塔の入口で話すような事じゃないよな。





 私以外、皆が塔の階段を上がっていく。

 最後尾の弟の背中が少し寂しそうで、けれども何か、荷を下ろしたような安堵感があるような、そんなふうに見えて。


「……気付かなかった。ミオが……重荷に耐えかねて、あそこまで悩んでいたなんて」


 ミオが生まれて十六年。

 私が一番の理解者だと、隣にいられる存在だと自負していた。

 だけど、気付けなかった……アイシアもミーティアもセリスですら気付けた弟の機微を、姉の私は……


「いつの間にか、武邑たけむらくんとして見ていたのかしら」


 あれだけ、ミオはミオだとクラウはクラウなのだと言っておきながら。

 情けない。不甲斐ない。これでは姉失格だ。


「しっかり見てるのね……二人は」


 ミオの隣に並ぶ二人に、嫉妬に似た感覚を胸に刺して。

 私も、気を引き締めて後ろを追うのだった。

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