10−83【十万の孤独6】
◇十万の孤独6◇
あれから更に数十日。
夏も本番、真っ盛りだ……くそ暑い。
「あっちぃなぁ……」
俺の額をパタパタと、柔らかい風が仰ぐ。
「ふふ、じゃあこれから【トリラテッサ川】に行く?」
ダレる俺に、上からミーティアが微笑んで言う。
【トリラテッサ川】とは、新しく引いた川の名だ。
「うーん……【トリラテッサ】からの移住者が色々と試してるし、邪魔しちゃうよ」
結果から言おう。
ペルさんの説得のおかげか、【トリラテッサ】のなんと半数以上の人が移住を決めてくれた。勿論俺も参加したが。
大成功ではないだろうが、それでも協力的になってくれて助かる。
半数と言えど、その数二百二十八人。
特に漁師さんと市場に店を出していた人たち、その家族が多い。
【トリラテッサ】に残った人の大半は、やはりフェルドさんに良くない感情を持ってしまった人が多かった。それにそれが全てではなく、近くの町に親戚がいたり、【トリラテッサ】の地にこだわりがある人たちもいた。
その人たちからすれば、俺は住民を奪った極悪人なのかもな。
だけど移住してくれた人たちは、長年住む事よりも来年生活する為の基盤を選んだという事だ。それは嬉しい、塔の村に価値を見出してくれたってことだからな。
それにその中にはペルさんも、市場に店を出していた老夫婦も、あのエロガキもいる。
「ふふっ。邪魔って……逆に喜ばれるんじゃないの?」
「いやいや、しばらくは自由にしてもらうよ。それに、【コメット商会】の第二陣も無事に帰還して……【ステラダ】の現状報告とか、すげぇ役立ったよ。これからまた第三陣が出立するんだろ?」
「私の方は順調よ?それよりも、川の方……お魚はいいの?」
「お!それなっ」
「わっ」
俺はミーティアの膝から起き上がる。
そうだよ……膝枕してもらってたんだよ。
「【トリラテッサ】の川を解析して、成分を同じにするのに二日。それから残ってた
魚や貝とか川蟹とか……捕獲するだけ捕獲してさぁ。放流するのも俺一人でやったんだよ……」
めっちゃ大変だった。
でも、【
結果的には、場所が移り変わっただけなんだからな。
「もう、何拗ねてるの?あの時、皆は忙しいからいいよって言ったのは、ミオでしょ?」
「そ、そうだけどさ……」
基本的に、作業は各々で分担してやっている。
だからミーティアはミーティアで、商会が忙しい。
クラウ姉さんは【
「引いた川から、地下に下水も作ったのよね?」
それも一人でやりました。
「まぁね。前の村のやり方と一緒で、奈落に落とす感じだけど……循環魔法の道具とかが入手できれば、地下水を浄化するつもりだよ」
【トリラテッサ】の人たちの居住区は当然、帝国領土の西だ。
塔の村全土、全ての建物に水洗トイレや流し台を設置して、快適に暮らせているはず。
「その地下水のおかげで帝国エリアの土壌も潤ってきてるじゃない。もう少しの辛抱よ、ね?頑張りましょう?」
優しく微笑んでくれる俺の彼女。女神よりも女神かもしれない。
「うん」
もう負けですよ、この包容力には勝てない。
最近、何故か俺が精神的に参ると、ミーティアがこうして慰めてくれるようになった――つまり、今のミーティアには俺が弱っているように見えるんだろう。
「よしよし……頑張ってるね、もう少しだね……」
サラサラと、俺の明るい金髪を撫でる。
あれぇ……何だこの感じ、まるで子供じゃないか……だが、悪くない!!
「それでその……ミオ?その宝玉?……どうするの?」
聞きにくそうにしながらも、ミーティアはそう言う。
そこまで遠慮する事はないのに。
「ん、あーこれな。そろそろ決めないとだよな……」
ミーティアが問うそれは、最近常に俺の手元にある。
十万人の魔力が凝縮されている……魔核だ。
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