10−82【十万の孤独5】



◇十万の孤独5◇


 俺はペルさんに話す。

 町が被害を受けた損害を解決する方法を。

 中にはこの場所に残る人もいるだろう。だが、新天地で目指す夢や未来を望む人も多いことを、俺は【豊穣の村アイズレーン】の人たちで学んだ。


 彼等は長年住み慣れたあのド田舎暮らしを離れて、塔の村だなんて未開な場所での生活に協力してくれた。

 結果として、競争心や自尊心が生まれた。有体に言えば、人間らしくなったと言っても過言ではないと思う。


 だから……移住しないか、可能な限りの人数で。


「マ……マジで言ってるぽこ?」


 疑いの目で俺を見るペルさん。語尾にぽこがついたぞ、動揺してんなぁ。

 それもそうだ、なぜなら俺はこう言ったからだ……もう一度言うぞ。


「マジです。今回この町の損害額、全部俺が払いますよ」


「……いやいやいや、無理だよミオくん」


 一瞬だけ考えたような間があったが、ペルさんは手と尻尾をブンブンと振って。


「だって今後の事もあるんだよ!?例え何百万【ルービス】(帝国の通貨)を払ったって、次まで一年あるんだもの……しかも今回は、例年にないほどの大量だったのよ」


 金だけなら、魔物を倒せば幾らでも稼げる。

 だが問題はそこではない。ペルさんの言う次とは、今回の騒動のタイミングの悪さだ。


「豊漁祭、でしたか……年に一度、漁獲量が大量にアップするって」


「そうぽこ。殆どの漁師さんは、それを売って一年の生計を立てるの」


 なるほど、年始のマグロみたいなものか。


「なら、川ごと移します」


「は……はぁっ!?バカにしてる!?」


 馬鹿になんてしていない。

 そして大真面目に言っている。


「塔の村に、川を引くことを考えていました。でもって、転生者おれたちなら簡単に出来てしまいます……普通の人たちからすれば、バカらしく聞こえるでしょうけど、大マジです」


「……流石に信じられないよ」


「証拠を見せます、来て下さい」


「あ――ちょっ」


 狸のお姉さんの手を取って【転移てんい】。

 問答無用だ。これはもう決定事項なんだから。


「――と!ミオく……ん?」


「この辺でいいかな……ウィズ、【トリラテッサ】の川と同じサイズの深度で地面変動だ」


『――了解しました』


「ちょっとミオくん!ここどこっ――て、何するの?」


「証拠を見せるって言ったでしょ?川を作ります」


「は」


 言うより見たほうが早い。

 二度目の地殻変動……今度は険しい崖じゃない、深くて広い川だ。


「――【無限インフィニティ】」


 かざした手から魔力が光る。

 ここは塔の村の北西、帝国領の乾いた土壌……そこを整地して置いた、川を引く予定だった場所だ。


「え……えぇ……ええええええええええええええ!!」


 ウィズの記憶読み込みとサーチ済みの川のデータを、直接地面に叩き込む。

 以前崖を作った時とは違い、無差別ではなく計算尽くだ。

 音も静かだし瞬きをする間もない。


「う、そでしょ……?あれ?さっきまでこんな穴……なかったのに」


「おしまいだ。どうですペルさん、ここに水を引けば、川になると思いません?」


 当然ながら、それだけでは意味はない。

 水を入れただけならただの溜池であり、生物や水の成分なんかも同じにしなければ。


「そ、れは……そう、なのか……なぁ?」


 戸惑ってる戸惑ってる。

 だから言ってやるんだ、未来の保証を。


「俺が約束しますよ。【トリラテッサ】から移住を希望する人たちは……全員、今の生活よりも安定が出来ることを。今はまだ大穴ですけど、ここから塔の村に引いていって、川にするんです……出来るのは、今見たでしょ?」


「……」


 ペルさんの視線は、ポッカリと空いた大穴。

 水さえ入ってしまえば、完全な湖だ。ここから更に引き伸ばしていって、長さを調節する。


「わ……分かったよ、町の人を……説得してみる」


「それでいいです。まだ魚とかも入れないとですからね」


 笑顔で締める。

 商人気質と言うか、物の価値を上手く分別できるペルさんなら、この場所に移り住む価値を見いだせるはずだ、きっと上手くいく……大丈夫さ。

 そう、大丈夫……大丈夫なんだ、絶対に……!

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