10−81【十万の孤独4】



◇十万の孤独4◇


 フェルド・ジュークが集めた十万の人間の魔力。

 個人を変換して集められたそれは、もう魂と言ってもいい。

 各国の小さな村や集落から、数年をかけて十万人……よく相棒のノワさんにバレずにやったものだよ。


「到着っと。ペルさんの店……【マッサロ】だっけか。行ってみますかね」


 【トリラテッサ】の町並みに直接【転移てんい】。

 昨日の今日ということで、町に人は少ない。

 まだ恐怖もあるだろうしな。


 バンッ――!!


「お邪魔するっすー」


「――ぽこぉぉぉっ!!び、びっくりした~!」


「す、すいません、ペルさんならいいかなって」


「な、なんでそうなるかな!?」


 もう安全だし、いるの分かってたし。


「まぁまぁ。それで町の様子はどうですか?」


「どうって言われてもねぇ、ミオくんさっき帰ったばかりじゃない……」


 確かに、それもそうだ。


「いやほら、俺たちがいなくなって家から出る人もいるんじゃないかなって思って。フェルドさんを恨んでる人も……まぁいたでしょ?」


「……そね」


 【トリラテッサ】の宿屋でノワさんが警戒していた理由だ。

 少なからず、フェルドさんにされた事を覚えている人はいた。

 特に【焔煌えんこう】の効果を直接受けたような、町の入口にいた人たちは。


「もうノワさんもフェルドさんも移動させましたし、事情も説明はしたでしょう?」


「うん。少なくとも、ノワくんを目の敵にする人はいなかったけど……やっぱりあの人を恨む人はいるんじゃないかな?あの日さぁ、結構大事なイベントがあったんだよ、市場でね」


「ほう……」


 つまりそれを邪魔……と言うか駄目にされたんだ。

 そうか、市場に行った時、人は誰もいないけど物だけがあったのはそういう事か。


「市場に置いたままの商品は駄目になるし、お金にもならなかったからね……これからどうしようって人も、必ずいるからさ」


 ごもっともだ。人体的被害を受けた人以外も、多くいる。

 そしてそれは、漁業が盛んな町なら影響も多大にある。

 あの日に行われるのは大漁だった川魚の売買、それが全滅……野菜を売る事を考えているんだから分かる、やるせないって。

 ましてや家族を養っているのなら、尚更だ。


「賠償とか……考えてるんですかね?」


「どーかな。一人の冒険者に町全体の賠償金は払えないでしょ……それくらい町の皆も分かるよ」


 今直ぐ弁償しろ、金を払え、駄目になった魚を戻せ。

 そんな言葉を浴びせることも出来たはず。でもしていない。


「……ならもう、選択肢は」


「ん?」


 【トリラテッサ】の町の人たちも、冒険者フェルドさんも、両者がめでたしめでたしで終わる方法は……俺を始めとした塔の村が作り出せる。

 そうさ、始めからスカウトが目的なんだ、なら遠慮することはない。


 この町のいい所を、全部吸収してしまえばいいんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る