10−79【十万の孤独2】



◇十万の孤独2◇


 フェルド・ジューク……彼を運ぶため、俺は【トリラテッサ】の宿に入る。

 そこでは警戒したようなノワさんが、俺を見て安堵した。


「ミオ君か……」


「はい、どうですか?準備の方は」


「……いや、すまない。遅れている」


 困ったように謝罪する。

 それもそのはずだ。


「ゆっくりでいいですよ、俺の能力で一気に移動できるんで」


「ああ、感謝するよ……フェルドも、まだ意識がはっきりとしないからね」


「そうですか」


 フェルドさんは、【フノデュ山脈】での事を覚えていなかった。

 自分がこれまで、過去に他の国でしてきたことは覚えていてきちんと話してくれたが、今回の【トリラテッサ】での事はまったく分からなかったと言う。


「昨日言ってた女神の声……って、やっぱりイエシアス――様ですかね?」


 あいつに様とか、笑えるな。


「……どうだろう。なんだか悲しそうな、怨念のような声だと言っていたけど」


 あいつならそれくらいやりそうだけどな。

 でも、疑問がある。


「ノワさん、俺たちの拠点である塔の村に……イエシアス様が滞在しているんですが、あの方は今の、女神としての力を行使できない状態にあります」


「そうなのかい?」


「はい。それはもう反省状態で、転生者にちょっかい出来る状態じゃないんです」


 数年前からフェルドさんにちょっかいを掛けているのなら分かるが、今だけは違うんだ。つまり、フェルドさんが暴走した原因は他にある。


「フェルドさんがここ【トリラテッサ】で暴走して、他では平気だった事を考えれば……考えられるのは、チート能力を持った転生者である可能性が高いと思ってます」


 【女神オウロヴェリア】の権能。

 失われた五番目の女神の能力は……復讐にまつわるものだ。


「彼はこの町に辿り着いた瞬間、まるで人が変わったかのように暴走した……そうですよね?」


「あ、ああ。あんな言動も行動も、するような奴じゃなかったのは確かだよ。でも……女神様の言葉を実行していたのは事実だ、だから罪は必ず……償わせるさ」


 きっと、数年前からのフェルドさんが行っていた、人間の魔力返還という行為は、イエシアスが囁いたものだろう。


「はい、その為に……俺たちの拠点、塔の村に案内しますよ」


 フェルドさんの能力も奪ってしまったしな。

 物体を魔力に変換、元に戻すことも可能な能力……【焔煌えんこう】。

 何故かあまり口にしたくない言葉だが、仕方がない。


「本当に俺たちも、いいのかい?」


「勿論!」


 なんにしても有能な転生者だ。

 能力がなくても魔導師なら、フェルドさんが償う機会もあるだろう。

 こうして、思わぬ形で人員を確保した俺たちは、【転移てんい】で村に帰るのだった。

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