10−78【十万の孤独1】



◇十万の孤独1◇


 今回の騒動の一端をさかのぼった結果、それは数年前から起きていたと言う。

 知られることのない程、狭くて浅い、小さな事件が……その始まりだった。


 冒険者ノワとフェルドは、【女神イエシアス】によって転生した転生者だ。

 二人は北の国(王国よりも更に北)の冒険者学校で偶然出会い、意気投合をしてタッグを組み、世界中を旅してきた。

 数年、仲良く旅をしてきたそうだ……しかしある時、フェルドに異変が起きた。


 声が聞こえるようになったのだと言う。

 女神の、ささやく声が。





 あれから数日、ここは【トリラテッサ】だ。

 気を失うフェルドさんはノワさんが担ぎ、俺はクラウ姉さんとライネに介抱されて下山、まるで高山病だった……

 そして現在、俺は町の風景を見て癒やされている……そう、人の営みだ。


「……こうでないとな」


 流石にその足で【焔煌えんこう】を使うのは骨が折れるので、町の人の開放は一日待ってもらった。

 そして先程、回収した【トリラテッサ】の住人数百人の魔力光を、元の人間の形に戻したのだ、【焔煌えんこう】を使って。


「魔力に換えるのも、もとに戻すのも出来るとはな……ウィズの記憶読み取りがなければ、そうとう時間がかかっただろうけどな」


『――あがめて下さい』


「嫌だよ」


『――拗ねますよ?』


「あはは、嘘だよ。感謝してるし大切に思ってるって」


 町並みを、階段の上部に座って眺める。

 抱き合う親子、泣きあう兄弟、笑い合う夫婦。

 様々な種族の人たちが、こうして無事に帰還したんだ。


「ミオ、準備いい?」


「姉さん。ああ、こっちはいつでも」


 後ろから声をかけてくる小さな姉に、笑顔を向ける。

 この後、俺たちは塔の村に帰らなければならない。

 ノワさんとフェルドさんを連れて。


 急がなければならない理由が出来たからだ。


それ・・……いつまで持つの?」


 クラウ姉さんが心配そうに言うそれ・・とは、俺の手の平に輝く球体だ。

 【オリジン・オーブ】ほどの輝きはなく、不思議な感覚もないが……この球体は、フェルドさんが【焔煌えんこう】で魔力に換えた……【トリラテッサ】以外の町や村の、十万人にも及ぶ命だった。


「どうだろう。俺が持てているのなら大丈夫だとは思うけど……安心は出来ないってのがウィズの見解だよ」


 魔力は一人一人違う性質があり、ウィズでも解析を完璧に行うには時間がかかる。

 ましてや十万人だ……幾らチート能力でも、時間は必要と言う事だ。

 がしかし、この球体の人たちは魔力に換えられてからの時間がかなり経過しているらしい。


 摩耗するんだ。そして最終的には消える。

 きっともう、消えてしまった人たちも多くいるのだろう。


「でも、開放したら開放したで大変よ?分かってる?」


「……そこなんだよなぁ」


 フェルドさんが行ってきた魔力返還は、数年。

 そして世界中だ。巧妙なのが、単独で行動している時のみやっていたという事。

 しかも、事件にもならないような小さ〜な村や集落で、ひっそりとだ。


 塔の村に帰って開放したとしよう。

 その人たちは……いったいどこへ帰ればいいのだろうか。

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