10−77【夏の焔14】



◇夏のほむら14◇


 空に魔力が散布されて行く。

 無意識に魔力を放出させられ、フェルドさんは苦しそうに顔を歪めながらも、やはり俺たちの事を見てはいなかった。

 まるで眼中に無いかのように、そもそも最初から一人で居たかのように。


「ぐっ、おおおぉぉぉぉ!魔力が……僕が集めた、女神様の魔力がァァァ……ぬ、抜けて、抜けていくぅぅぅぅぅ!!」


「まだだぁぁっ!ウィズ……放出された魔力を回収する能力、あの人から奪うって事でいいんだな!?」


『――その通りです。あとはフェルド・ジュークに内包された魔力が放出され切れば、いつでも発動できます』


 ならよし!終わったら盛大に吐くからなぁぁぁぁ!


「三人共!あの人の動きを封じてくれっ!」


 ここからが今回の作戦の本番だ。

 最初に言った事を実行するんだ。


「任せなさいっ――【孔雀貫線光ピーコック・レイ】!」


 魔力が抜けて紙防御になった手足を、光線が穿うがつ。


「アルカ流剣術……【虎崩こほう】!はぁぁぁぁっ!」


 力が入らず膝をついたフェルドさんに、ライネが【アロンダイト】の刀身の腹をぶつけ、魔力ではなく……闘気を込めて放つ。

 ドンッ――と鈍い衝撃音が鳴ると、フェルドさんは白目を剥いて吹き飛ぶ。

 そこに。


「フェルド、これで話を聞ける!……【操影そうえい】っ!」


 ノワさんは右手を自分の影に叩きつける。

 するとそこから、一度戦った影の魔物が出現した。

 素早く走って、倒れたフェルドさんの四肢を押さえつけた。


「……ナイスだ三人共……うぷっ……」


 魔力が宙に漂っているうちに、回収しないと。

 万が一魔力が消えて元の人間の姿に戻せないようなら、意味ないからな。


 俺は吐き気を我慢し、顔を青くしながら倒れるフェルドさんの胸に手を当てる。


「悪いね、初対面でいきなりこんなことしてさ。でも……これがアンタの断罪さ」


 能力……【強奪ごうだつ】。

 この人の能力を、奪う。


「行くぞウィズ……【強奪ごうだつ】!!」

『――【強奪スナッチ】!!』


 身体の中に侵入し、俺の魔力は牙となってフェルドさんの中枢に入り込む。

 一撃で、そのあぎとは能力を噛み砕いた。


「よし、行くぞ――【焔煌えんこう】!!」


 空に舞った赤い魔力光は、収束されて俺の手元に回収されていく。

 うわぁぁぁぁ……この異物感ひえぇぇぇぇぇ!

 身体の中に別の人の魔力が入ってくる感じ、気持ち悪いんだが!


 ドンドン入ってくる……これやばくないか?このフェルドって人、こんだけの魔力を溜め込んでたのかよ。

 しかし、漂っていた魔力がやがて消えて、俺の手元にキラリと静かに輝く。


「……はぁ……ガチで戦ったわけじゃないのに、こんなにキツイなんて」


「おつかれミオ、顔青いけど」


「だ、大丈夫ですか?」


「フェルドっ!フェルドっ!!」


 二人は俺に声をかけてくれて、ノワさんはフェルドさんのもとに走り出した。


「あー……うん、駄目そう……――うぶっ!!」


「あーはいはい、吐きましょうね」

「わぁ!!ミオくぅぅぅぅん!」


 二人に介抱されて、俺は盛大に吐いたのだった。

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