10−76【夏の焔13】



◇夏のほむら13◇


 【フノデュ山脈】の山頂に炎柱がそびえ立った。

 【煉華れんげ】を思わせる熱気は、事前情報とは違うほどの業火であり、数百人規模の魔力を優に超える大魔法だった。


「――姉さん!!ライネっ!!」


「分かってるわよ!」

「分かっています!」


 計算が狂うとはまさにこの事だよ。

 フェルドさんが魔法を発動した瞬間に、俺が【零無れいぶ】でフェルドさんの魔力を空にし、そして【反転はんてん】で魔力の逆流をうながすはずだった。

 そうして空中に霧散した魔力を回収し、元の人間に戻す……予定だったのに。


「桁が違いすぎるっ!!ノワさん、【トリラテッサ】の住人数百人分の魔力じゃなかったのか!?あれはどう見ても……千人分はあるんだが!?」


「し、知らない!俺にもあんな……フェルドの魔法も!あの魔力も!!」


 戸惑いは初見の俺たちだけじゃない。

 相棒であるはずのノワさんすらも、あの異常な魔力を放つフェルドさんを、まるで赤の他人を見るように見るしかなかった。


「――ミオ、だめ!攻撃が弾かれるっ!!」


「近付く事も出来ませんよこれじゃあ!」


 話をしている間にも、二人は攻撃を試みてくれていたが、結果はこの通り。

 魔法攻撃は異常な魔力に弾かれ、近接攻撃は逆巻く炎の柱で近付く事も出来ない。


「くそっ、誤算が過ぎる!!」


 せめて威力を弱めて。


「――【反転はんてん】っ!!」


 ぐるんと視界が揺れる。

 【反転はんてん】は強力がゆえ、副作用が酷い。

 激しい目眩と吐き気に襲われつつも、フェルドさんの炎を抑えるために魔力出力を真逆にする――しかし。


「くっ……転生者おれらの魔力を軽々と超えてるんだよ!!」


 ノワさんもフェルドさんも転生者だが、チート能力増し増しの俺以上に魔力が高い。これも能力――【焔煌えんこう】で住人を魔力に変換したからか。

 しかも疑わしいのは……【トリラテッサ】だけじゃない、と言う事だ。


「ははははははっ、どこの誰だか知らないが……僕の……女神様の復讐の邪魔は――させないぞぉぉぉぉ!!」


「女神だと!?」

「女神ですって!?」

「まさかっ!」


 炎が威力を増す。

 熱が肌を焼く。空気が熱い、呼吸が苦しい。

 追加される情報、その言葉の意味。


 女神と口にした瞬間、フェルドさんの魔力が増す。

 このままだと抑えられなくなる!


「こんのっ……ウィズ!」


『――これ以上【反転リバース】を使用すれば吐きますが。リバース……だけに』


「お前が冗談言うなら余裕ってことだろ!!構わないからやれっ!まずはあの炎柱はしらの威力を下げるっ!二人が近付いたらこっちのもんだからな!」


『――了解』


 魔力を込める。

 フェルドさんの炎をしぼめるだけでもいい!

 自分が放出している魔力の入口を【反転はんてん】させて、無理矢理き止めるんだ!!


「な……んだ、これは!!」


 天に走る炎は少しずつ、絞り取られていくように小さくなる。

 くっそ……すげぇ魔力消費だ。どれだけの人を魔力に換えれば、ここまでの規模の魔法を一人で使えるんだよ。


 しかし、俺の【反転はんてん】による影響によって、炎の弱まりを感じたのか、空にいるクラウ姉さんが。


「これなら――【光線剣レイブレード】っ!!はぁぁぁぁぁぁ!!」


 行けると判断して、両手で構えた【クラウソラス】を振りかぶり、叩きつける。

 ドッ――!と炎柱に直撃すると、割り箸のように綺麗に、柱が真っ二つに割れた。


 炎は半分以上が消えた。

 叩き折るように斬り伏せたクラウ姉さんは、揺らめいて落下。


「【アロンダイト】っ!」


「なに!誰だ……っ!」


 柱が消えてフェルドさんの姿が見えるとすかさず、ライネが弾丸のように走り出し、一閃。

 まるで俺たちを認識していないかのようなフェルドさんの台詞セリフに違和感を覚えつつも、俺は――手をかざし【零無れいぶ】を発動する。


「おえっ……気持ち悪ぃ」


 だがもう少し、もう少しでフェルドさんの隙を……ここだ!!


「――【反転リバース】!!」


 フェルドさんの炎が消える瞬間、【反転はんてん】で魔力を逆流させる。

 残りの魔力全部……空にブチ撒けろぉぉぉぉぉぉ!!

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