10−75【夏の焔12】



◇夏のほむら12◇


 暑い。夏が近いのもあって、歩くだけでも汗が吹き出してくる。

 山は涼しいのではという脳の思い込みも、そろそろ切り替わって欲しいものだ。


 慎重に気配を消し、登山をして山頂まで到達した俺たち。

 ノワさんがふと、背後の俺たちを手で制する。


「よし……ここで一旦待機だ」


 ノワさんの相棒フェルドさんの姿を確認すると、ライネも。


「気付いてませんね、彼」


 そこまで高くはない山頂で岩場に隠れた俺たちを、フェルドさんは気付くこと無く、ボーッと空を見上げていた。


「……本当に、大丈夫なのか?」


「はい、弟に任せて下さい。そうよね?ライネ」


 そうそう、俺にね。


「ですね、だから私たちは彼の気を引きましょう」


 ノワさんは、俺の提案に納得してくれた。

 命を奪う選択は、俺の一手を見てからしてくれると。


 そんな俺は――ブツブツと。


「一人一人を魔力に変換して、自分の中に留める感覚……能力はどうとでもなる、問題は組み合わせだ。数百人分の魔力、今の俺なら受け止められるはず……問題はその後だ。救い出した人たちそれぞれの魔力を……元の人間の姿に戻せるか。フェルドさんの隙さえつければ、【反転はんてん】を使って魔力の逆流もいける……【零無れいぶ】であの人の魔力をゼロにして、空中に霧散させた魔力を……回収……よし、いける……」


「いけそ?」

「大丈夫ですか?」


 心配そうに俺を見る二人に、俺は。


「ああ。被害無しで解決してやるさ……必ず」


 ノワさんもフェルドさんも、【トリラテッサ】の住人たちも。

 塔の村に関わるかも知れない人たちなんだ。そもそも今日の目的はスカウト、狸のお姉さんに市場の人たち、それにノワさんなんて有能な転生者とも出会えた。

 フェルドさんに関しては、まだ不透明なことが多すぎて答えは出せないが。


「よし、じゃあ協力頼むっ!ミオ君、クラウちゃん、ライネちゃん……相棒を、止めてくれ!!」


「「はいっ」」

「任せてくれっ」


 行動開始だ!!





 先手を必ず取る事が、今回の作戦の第一条件。

 入念に互いの動きを確認し、まずはフェルドさんの死角から……クラウ姉さんが奇襲を仕掛ける。


 一旦遠くまで離れて四翼の翼を展開し、空を舞って背後から。

 不意打ちもいいところだが、今回は勘弁だ。


「――【貫線光レイ】っ!!」


 動きを止めるために、足を狙った光線を放つ。

 流石はクラウ姉さん、見事にフェルドさんの足に直撃するが。


「……なんだ?」


 少し身動いだだけだが違和感に気付き、フェルドさんは振り向いた。

 数百人分の魔力を奪って魔力が高くなった状態だ、効かないのも想定内。


「本命はこっちですっ!!」


 フェルドさんが背後を向いた瞬間、岩陰からライネが【アロンダイト】を振り抜く。帝国に古くから伝わる剣技らしく、衝撃波を見舞う技だったかな。


 ドギャッ――!!


「ぐっ……かはっ、誰だっ!?」


 衝撃波は背中に直撃する。

 威力は最小に抑えられており、バランスを崩させる程度だったが、それで相手もスイッチが入った。

 得意だという、魔法を発動させる。


「僕の……邪魔をぉぉっ!!……すぅるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 魔法の上書き保存。

 発動直前に、新しい魔法で上書きすることで、詠唱が完全に終了した状態で保存できるという高度な技能。

 フェルドさんは魔導師、ならば上級魔法を保存している可能性も考慮している……のだが。


「フェルド……お前、こんな魔法を……!!」


 相棒であるノワさんも驚くほどの高密度な魔力は、掲げた腕から上空に舞い上がっていく。

 赤い魔力光は、俺の【煉華れんげ】を思わせるような炎の魔法だった。


「マジかよ……」


 クラウ姉さんもライネも俺も。

 予想以上の魔法の発動に身を引き締めさせられる。

 これ……本当に数百人分の魔力か?

 規模で言えば大魔法、軍隊の魔法使いが挙って発動するような……そんな魔法だと、俺は思った。

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