10−74【夏の焔11】



◇夏のほむら11◇


 四人で話しつつ、しっかりと足取りを【フノデュ山脈】へ向け十数分。


「あそこがふもとだ」


 山の裾に、登山口のような看板を見付けた。


「気配はないな、山頂に……って言っても、そんなに高い山じゃないしな」


「そうね、【感知かんち】にもかからないから、魔法なんでしょうね」


 フェルド・ジュークは魔法が得意らしい。

 【トリラテッサ】の町で俺たちが困惑させられた要因の一つ。

 ウィズまで騙すんだから見事なもんだ。


「……町に残っていた傷跡は、俺が【操影そうえい】で作った影の魔物がつけたものだから。フェルドの奴を本気で攻撃したんだけどな……」


 それでも倒せなかった。

 町の人たちを魔力に換えて、防ぎきったそうだ。

 そして数百人分の魔力を人質に、【フノデュ山脈】へ逃亡……一体何がしたいんだ?


「登るしかなさそうですね……」


「俺が見てくる。見つけたらすぐに戻るから」


「え?」


 クラウ姉さんとライネはうなずき、ノワさんは困惑したが。

 そんな事は気にせず俺は【極光きょっこう】で天に走る道を作る。


「んじゃ行って来る――【紫電しでん】っ!」


「あちょ、ミオ君!?」


 ギャッ――!!バチバチ……





 【光の道オーラロード】は虹の線路だ。

 そこを超高速の稲妻を浴びて走る、いや滑る。

 標高は高くはなく、村の塔に比べれば可愛いものだ。


「……見つけたっ」


 高速で動き回りながら、悟られないように後方からチェック。

 開けた場所の山頂に、独りの男がぽつんと佇んでいた。


 確認をし、俺はそのままスルーをして戻る。

 敵意も何も、こちらに気付くこともなかった。


 スタッと着地。


「……おかえり、どうだった?」


「それらしい男性が一人で山頂に居たよ。開けてて戦うこともできる、だけど……心ここにあらずって感じだったな」


「魔法はどうだった?」


 ノワさんが顎に指を這わせて聞く。


「……兆候は見られませんでしたけど、気配を隠す魔法が得意なんですよね?」


「ああ、魔法を上書きして隠すんだ。キャンセルすれば、上書き前の魔法が発動されたりする。兆候がないということは、微弱な魔力で隠しているんだ……つまり」


 発動はいつでも出来ると、そういう事か……


「先手を打つには、四方からですかね」


「いや、山頂で四方八方ほぼ崖だよ。一本道に近いからそれは無理だな。それでも登るってんなら別だけど」


 俺が【極光きょっこう】、クラウ姉さんが【天使の翼エンジェル・ウイング】で飛んでも三方向だ。

 奇襲で害する事だけは簡単だけど……問題はノワさんだな。


「ノワさんはどうしたいですか?」


「俺……?」


 クラウ姉さんが聞く。

 多分俺と同じことを考えてくれている。


「私たち、正直言えばいきなり襲いかかって命を奪うことも出来ます。でも、なるべくならそうしたくない……ノワさんも、その人は大切な相棒なんですよね?」


「……ああ」


 その命を奪うと、もう決めているんだよな。

 だけど、その選択肢は早計だと言わせてもらう。


 俺は言う、これはノワさん次第で変えること出来るんだ。


「フェルドさんを無罪放免で許すことは、【トリラテッサ】の人からすれば無理なことだ。なら、償わせればいい……死ぬ気で働いて貢献して、許しを請うんだ」


「……ゆ、許されるはずがないだろうっ。数百人だぞ、もしかしたら魔力消費で消滅している可能性だって……無くは、ない」


 自信なさげにうつむくノワさん。

 冒険者としての実力も実績もある。だけど決定的に違う点が、俺たちにはある。


「事情は聞いてないんですよね?山頂で見た感じも不自然に思えたし、もしかしたらなんらかしらの影響下にある可能性だってあるでしょ?」


「それは、そうだが……」


 まずは魔力に変換された町の人たちを救出。

 そして話を聞けるようにする。命を奪うかは、それからだ。

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