10−73【夏の焔10】



◇夏のほむら10◇


 【フノデュ山脈】への道すがら、ノワさんから詳細な情報を得た。

 相棒の名は――フェルド・ジューク。

 共に……イエシアスに転生させられた転生者だった。


 フェルドという男は、町で突然奇行に走ったらしい。

 自分の能力――【焔煌えんこう】を使い、町の人を魔力に換えて。

 人々は次々に魔力光となり、フェルドさんの魔力として取り込まれたそうだ。

 しかし、死んではいないと言う。助ける術はあるのだ。


 ノワさんは影を操り、フェルドという男は炎を操る。


 あと、驚いた事もある。二人共が、やけにイエシアスを崇拝していた事だ。

 その女神がまさか、簀巻すまきで吊るされ、緊箍児きんこじのようなネックレスをつけられて、村で悶絶してようとは思うまい。

 これ、知ったらどうなるんだろうか。


「えっと、ノワさん。そのフェルドさんも冒険者なんですよね?お二人共、冒険者学校を卒業したんですか?」


「ん?いや……残念だけど卒業はしてない。C級ライセンスが取れればよかったからさ、わざと落ちたよ」


 そういう考えもあるんだよな。

 やっぱりつくづく思う――冒険者学校はガバガバだ。

 三年間の卒業の価値と、途中退学の結果が同義なんだから。

 ロッド・クレザース先輩も、進級できなくても特に後悔なさそうだったらしいしな。


 勿論、B級ライセンスとC級ライセンスでは雲泥うんでいの差だが、それは転生者である以上簡単にくつがえせてしまうからな。


「ですよね、私もそうしようと思ってました。転生者である以上、能力次第で普通の冒険者よりも活躍できますからね。ライネはどうなの?軍人でしょ?」


 クラウ姉さんもそんな考えを持ってたのか。

 普通に卒業しようとしてた俺の浅はかよ……


「うん、私は正規の軍人だけど、冒険者のノウハウは心得てる。ある程度のことは軍事学校で学ぶし、偵察やら侵入やらで知識も身に着けないとだから」


 ライネがそんな事を言う。

 い、色々あるんだな軍人も。ユキナリの奴が特別なだけなんだろうか。


 そんなライネに、ノワさんが苦労人を見る目で。


「そうなんだ……帝国の軍人さんは大変だね」


「い、いえ、任務なら仕方ないですから。それに、知識だけで実践は全然こなせてないですし……あはは」


 自嘲気味に笑う。

 【帝国精鋭部隊・カルマ】の中でも後輩なんだよな確か、だから実践を重ねる前に、俺たちに関わったという事だ。

 それがいい方に転んでくれればいいけどな。


「ミオ君はどうなんだ?君も学生なんだろう?」


「俺ですか……?俺は――まぁ気ままと言うか、目的もなく通ってましたよ。でも、学ぶ事も強くなる事も出来ましたし、なによりいい出会いが沢山ありましたから……今では感謝してます」


 当時は父さんにキレたなそういえば。

 俺のプランで言えば、村で農家を継ぐなんて考えてたんだからな。

 だからいきなり村を出ろとか言われて困惑して、挙げ句、家を飛び出したりしてさ。情けなかったな。


「そうか。俺も……フェルドとの出会いは大切にしたかった・・・・・よ……」


「ノワさん……」

「「……」」


 ノワさんはフェルドさんを殺す気でいる。

 大切な相棒を、取り返しのつかない事をした相棒を。

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