10−72【夏の焔9】



◇夏のほむら9◇


 各自部屋の中に座る。

 非常に狭いのは我慢だ、奥の方には残った住人さんもいるしな。


「ミオ、もっと足広げて」


「は?――って問答無用かよっ!」


 胡座あぐらをかいた俺の間に、クラウ姉さんが座り込んでくる。

 グイグイと無理矢理尻を押し込み、すっぽりと収まった。


「いいなぁ」(小声)


 全然良くないし、暑いんだが!?

 しかもなんでライネはうらやましそうに言うのさ!

 小声でも聞こえてるぞ!?


『――二人共ミーティアの不在をいい事に、ミオに甘えようとしているのでしょう』


 め、面倒臭ぇ……


「えっと――は、話をしてもいいかな?」


「すみません、お構いなくどうぞ」


 ノワさん引いてるじゃないか。

 そしてガキンチョは……羨ましそうに見てる。

 はっはっは、どうだいいだろう。


『――先程の「面倒臭ぇ」とは?』


 いいじゃないか、これで俺の気も晴れたさ。


「さぁ話をしようかっ!クラウ姉さんっ」


「いいけど、なに頭撫でてんのよ」


「はははっ、可愛くてついね!」


 満更でもなさそうじゃないか、嬉しいんだろ?


「じゃ、じゃあ話させてもらうけど……君等、仲いいね」


 ノワさんは若干引き気味だった。

 姉弟仲がいいのはいい事でしょうに。


「では……まず俺が君たちを警戒してしまった点だが。これはあいつ……人を警戒していたからだ」


「相手は人ですか……」


 あいつってのは人。

 つまりは魔物の仕業ではなかったという事になる。

 【トリラテッサ】の住人がいないのも、町のあちこちに爪痕のような傷が残っていたのも、人の行いと言う事か。


「ああ。俺の……相棒なんだ」


 ノワさんは心苦しそうに、けれども言わねばと。

 事の発端を作り出してしまったのが、自分の相棒だと宣言する。


「そういう事ですか。だから残っている【トリラテッサ】の住人を保護して」


「……せめて、少しでもと思ったんだ」


 ノワさんの隣に座るペルさんが、狸尻尾をへたり込ませて。


「ノワくんは、守ってくれた。突然暴れ出したあの人から」


「ありがとう、ペルさん。だが解決に向けて、俺はあいつを……殺さなければっ」


 拳を握り、ノワさんは眉をしかめた。

 苦渋の決断、そんな言葉が似つかわしいだろうか。


「ノワさんの相棒さんは、今どこに?【トリラテッサ】の町には誰もいませんでしたし、この林の中とは思えませんが」


 私情を挟まないように冷静に、淡々とした口調でクラウ姉さんが問う。


「あいつは北の山……【フノデュ山脈】にいるはずだ。【トリラテッサ】の住人たちを連れてな」


「住人たちを、連れて・・・……ですか?」


 ライネが不思議そうに聞く。

 まるで一緒に行動しているかのような言い回しだが。


「そうだ。これは君たちが……俺たちと同じ存在・・・・だと思っているからこそ言える。あいつは能力を使用して、【トリラテッサ】の住人を人質にしたんだ」


 やはり転生者。

 ノワさんが林の中で使っていた【操影そうえい】という、影を操り魔物のように使役する能力も凄かったが、相棒とやらも。


「その言い方的に、町の皆さんは無事なんですね。それだけでもよかった」


「そうだな。それだけが救いだよ……」


「住人が無事だというのなら、まとめて救い出せばいい。私たちで協力してやれば、きっと何とかなるわ」


 自信をみなぎらせるクラウ姉さん。

 しかしその通りだ……何らかの能力で人質にしているのなら、必ず救い出す方法があるはず。

 ノワさんも、相棒と言うだけあって知っていることは多いだろうし。


「なら道すがらでも詳細を聞かせて下さい。その【フノデュ山脈】へ、行きましょう」


 決まりだ。

 【トリラテッサ】の住人を救い出す。

 相手は一人の転生者だが、油断はできない。

 数百人の人質もいる事だ。だから慎重かつ大胆に、俺たちは行動を開始する。

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