10−71【夏の焔8】



◇夏のほむら8◇


 小屋に入って早々に、その声は響き渡った。


「ああああああああっ!!」


 俺を指差し、目を大きく開いて尻尾をピンと立てる。

 丸い耳に太めの尻尾が特徴の……狸の獣人。


「こ、声デッカっ!ちょっと静かに!ペルさんっ!!」


 ノワさんが、耳を押さえながら狸のお姉さんに注意を促す。

 狸の獣人、ペル・タリラーシャ。

 骨董収集が趣味の、ちょっとがめついお姉さんだ。


 他の人も数人見えるが、どうも元気がない。

 大人は疲れ切っている様子で……こちらにも気付いたが、。

 俺は会釈だけすると、ペルさんはそれを確認して。


「ご、ごめんごめん。見知った顔が出てきたから、つい」


「無事だったんですね、ペルさん。よかったです」


 鼓膜が破れるかと思ったよ。

 だけど、無事で何よりだ……スカウトの対象者なんだし。


「まさかミオくんが来るとは思わなかったなぁ。で、そちらのお嬢さん二人は?」


 物珍しそうに、クラウ姉さんとライネを視野に入れて嬉しそうにするペルさん。


「はい、こっちの小さいのが俺の姉、クラウで。こちらが友人のライネです」


「誰がちっさいのよ。どうも、ミオの姉のクラウ・スクルーズです」


 いや小さいだろどう見ても。


「私は……【帝国精鋭部隊・カルマ】所属、ライネ・ゾルタールです」


「おお!軍人さんだったのか、それならあの強さも納得だよ!じゃあ君たち姉弟も?……転生者とくべつなのは分かったが」


「いや、俺らは普通の農家……いや、最近はそうでもないかも……えっと」


 あんなドデカイシンボルマーク作っておいて、肝心な役職が決まってなかった。

 そういえば俺の現在の役割ってなんだ?一応学生ではあるんだが、全生徒休学中だぞ。


 俺がどう説明すべきが考えていると。


「私たちは東の三国国境に拠点を置き、あの塔を管理するものです。弟はそのリーダー……ですかね」


「あ、あの大きな塔の……」


「じゃあ、ミオくんは豊穣の村から?」


 あの日の状況は、周辺各地に広まってる。

 ペルさんを始めとする【トリラテッサ】の住人たちも多くが知っていた。


「そういう事です。村からは完全に撤退、その後こちらのライネの所属する帝国軍の力、隣国の力も借りてあの場所に……塔を建てました」


「そーだったんだ、ごめんね……そんな忙しい時に」


「いいえ、そもそも私たちは目的があって【トリラテッサ】に来たんです。でも……まさかこんな事になっているとは思いませんでしたが」


「と、言うわけだノワさん。俺たちはまだ新進気鋭の新参者、【トリラテッサ】に来た目的は、はっきり言ってしまえば……スカウトなんだよ」


「「スカウト??」」


 そうさ、狸のお姉さんは目利きが凄い。

 市場の人たちの活気はやる気と元気をくれる。

 ペルさんはまさか自分がその対象だとは思ってなさそうだけど。


「そ、スカウト。まぁそう言う訳なんで……協力しますよ、あいつ・・・とか言う奴を倒す為に」


 一つ、これはチャンスでもあると思った。

 不謹慎ではあるが、【トリラテッサ】の人たちに恩を売る……チャンスだと。

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