10−69【夏の焔6】



◇夏のほむら6◇


 【トリラテッサ】の北部。

 町から直接入る事のできる小さな林だが、格別広くはなく、木々もそれほどの高さはない。


「足跡があるわね、一、二、三……う〜ん、重なってて分かりにくい」


「ウィズ」


『――足跡の形状から、最大で十五人と推測。子供の大きさもあります、数は三』


「大人十二人、子供三人だってさ」


「少なすぎですね……数百人規模で、町人が行方不明だなんて」


 髪の毛をくるくるとさせて、林の湿気に抵抗するライネ。


「どこ行ったんだろな……」


「逃げた人に聞くしか――ミオっ!!」


 クラウ姉さんが【クラウソラス】を展開する。

 声を上げたのは……魔物の反応があったからだ。


「分かってるっ!ライネ!」


「了解っ……【アロンダイト】っ!!」


 三人で陣形を。

 トライアングルの形状で周囲を警戒。

 三方向から感じる魔物の数は……十五だ!


「……同時に来たっ!?まさか統制されてる?」


「魔物がかっ!?」


「作為的な何かを感じますね……」


 ジリジリと迫る魔物は、四足歩行。

 しかし体躯たいくはそれほどではなく、町に爪痕を残したものではないと分かる、分かるのだが。


 グルゥグルグルグルゥゥ……!


「めっちゃ腹空かせてる……?」


「キモいわね。私たちは食料じゃない、わよ!!」


 クラウ姉さんが飛び出す。

 翼は使わず、【クラウソラス・クリスタル】で斬りかかった。


「私も行きますっ!」


 続けてライネも走り出した。あの……連携は?

 二人の少女は野生の魔物も引くレベルで攻撃を仕掛けた。

 あーあ、俺の出番は無いみたいだ。





 俺は【カラドボルグ】を仕舞う。

 狼型の魔物は、数体を残して撃退。

 残りを追おうかとも思ったが。


「……人の気配ですミオ君」


「そうみたいだ」


 魔物は、気配の持ち主に寄り添うように影に入る。


「出て来なさい」


 クラウ姉さんは切っ先を影に向ける。

 すると魔物の主と思わしき人物が……出て来た。


「……待ってくれないか。こちらに敵意はない」


 襲ってきただろうが。


「どの口がっ」


 両手を上げて、降参の意を示して。


「男性……ですね」


「町の人間、ではないな。冒険者か?」


 出立ちから、ただの町人ではないのは確実。

 腰には帯剣されているし、魔力も少々だが感じる。


「……俺は、冒険者ノワ。ノワ・パレーヴァと言う」


 二十代くらいか、片目が隠れた前髪が特徴的。

 魔物は……ノワと名乗った男の影に入って消えた。


「その魔物、あんたの魔法だったのか……それとも能力?」


「おっと……するどいね。俺の能力――【操影そうえい】は魔力で魔物を作り出せるんだ。とは言っても本物の魔物ではないから安心して欲しい、先も言ったが敵意はないよ……本当だ」


「なら何故攻撃を……?」


「そうよ、ガチガチに敵意剥き出しだったじゃない!」


「いやいや、先に攻撃してきたのはそっちじゃないかい?」


 笑いながらそんな事を言う冒険者ノワ。


「そんな事っ……。……。……あ」

「あっ」


「……マジじゃん」


 俺は頭を抱えた。

 こんな事なら無理矢理押さえりゃよかった。


「スミマセンデシタ……」


 そっぽを向きながら謝罪するクラウ姉さん。

 謝る気ねぇじゃん。


「はっはっは!いいさ、お互い様だしね……それに、君たちも町から来たんだろ?なら、協力して欲しいのはこっちなんだよ」


「「協力?」」

「ですか?」


 【トリラテッサ】の町に魔物の襲撃跡があった事、住人がいなくなった事。

 どちらにせよ、詳しく話を聞かないとだな。

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