10−68【夏の焔5】



◇夏のほむら5◇


 誰がどう見ても川という、ゆったりとした流れの開けた場所。

 木造の船が幾つも浮かんで停められていて、釣り場もあり泳げそうな浅瀬まである。

 本来なら漁師や市場の人たち、子供たちで盛んになっていそうな場所なのに……


「だ、誰もいねぇ、煙だけだっ!」


 そこでは風の流れに乗って煙が舞い、地面では火が焚かれ、焼けた実がパチパチと弾けていた。

 黒に近い煙は、非常に臭い……鼻が曲がる!!


「気配は?」


「この場にはありませんね。奥地……ですよね?ミオ君」


「ああ。多分……あっちの林の方に行ったんだろうな」


 【感知かんち】でもぼやけてる感じだ。

 俺でもそんな感覚なんだし、二人は更に感じづらいのかもしれない。

 だけど阻害とも違うし、魔法で邪魔されてる感じでもないんだけどな。


「行って……みる?」


 どことなく不安そうなクラウ姉さん。

 どうした珍しい、もしかしてあれか……野生の勘とか。


 ギロッ――


「ひっ、被害があるなら助けたいけど、あの魔物の痕跡こんせきも気になるよ。血痕がなかったから町の人も無事だと思いこんでたけど……ウィズの言う魔物のデカさなら、もしかしたらの可能性もある」


「ま、まさか……食べられて?」


 その推測に、ライネも渋い顔をする。

 あくまで可能性だが、ありえない話ではない。

 例えば頭部や顎が異常発達し、身体よりもデカいとか……さ。

 それなら丸呑みも簡単だし。有袋類のような魔物可能性もいなめない。


「血痕がないなら、捕らえられた可能性もあるんじゃない?例えば魔物に命令して、無理やり捕まえたとか、ね」


「確かにな……でも何の為に?」


 それだと転生者が候補に上がる。

 ユキナリのバカのような、魔物を操る能力を持っている可能性か。


「冬眠用……は早すぎるわね、もうすぐ夏だってのに。人間を捕らえるメリット、魔物からすれば何かしら」


「魔力の補充、ですかね」


「だけど、この町もほとんどが一般人のはずだぜ?魔力が高い種族も、そうそういないんじゃないか?」


 魔物がエルフを狙ったという前例ならイリアのお母さんの事件があるが。

 この【トリラテッサ】にはエルフはいないし、魔族も少ないはず。

 獣人は魔力と言うより身体能力に特化してるはずだし……


『――生体反応を確認。ミオが言うように、あの北部の林に数名存在……データから、あの獣人でしょう』


「あっちにいるみたいだ。でも数人か……どういう事なんだ、この状況」


「数人って、少なすぎない?」


 少ないし不安しかないよ。

 しかし行くしかないのも決定だ。スカウトしにここまで来たってのに、このまま謎の町人失踪事件として放置してたら、非人道的だからな。

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