10−67【夏の焔4】



◇夏のほむら4◇


 前回町の入口にいた物乞いのオッサンは、今回はいなかった。

 と、いうよりも……なんだか、町全体の雰囲気が重い気がした。それもかなり。


「……なんだ?」


 あの活気があった町が、やけに静か過ぎる。


「活気が無いわね、話と違うじゃないミオ」


「市場やお店が沢山と、そういう話でしたけど」


 二人も、俺からの前情報との違いに困惑していた。

 違和感も感じているだろうし、この静けさにもか。


「あ、ああ……そのはずだったんだけど。おかしいな」


 比較的に人が少ないのは仕方がない、小さな町だし。

 しかしこの静けさは、おかしい。


「お休みとか、でしょうか」


「まさか。個人でやってる小さな市場で、全休業はありえないし、店も開いてなければ通行人の一人もいないのは流石に」


 人の気配すら感じないレベルだぞ。


「とにかく町に入りましょう、どこかに集まってる可能性だってあるでしょ?」


「そうですね」


 クラウ姉さんの言葉にライネもうなずく。

 三人で周囲を確認しつつ進むが、精々数百人の小さな町で、全員が集合できる場所なんて想像できないが。





「――これは」


 地面に、町に入る前の懸念が如実に反映されていた。


「魔物の痕跡こんせきね……爪、かしら」


 しゃがんで確認するクラウ姉さん、ライネは周囲警戒をしてくれている。


「それにしてもデカいな、どんなサイズだよ」


 えぐり取られたような、数本の傷跡。

 ちらりと見える範囲でも数カ所、小屋なども壊れている。

 幸いにも、死体が確認されなかったのはよかったが。


『――傷跡から、全高二十mメートル程と推測。複数の傷を確認……四足歩行の魔物であると思われます』


「二十mメートル級の四足歩行……亜獣、か?」


「【アルキレシィ】のようなって事?」


 かも知れない。


「可能性はあるね。ん?……この匂いは」


 獣臭と、焼けたような臭いが鼻につく。

 それを感じたのは俺だけではなく。


「――二人共、あちらを!」


 ライネに言われ、言われた方向を向くと。


「煙だな、狼煙のろしでは……ないっぽいけど」


 スンスンと、クラウ姉さんが。


「そうね。悪臭に近いわね、確かコレ……冒険者学校で学んだわ。【アブサレの実】、だったはず」


「魔物除けと有名な実ですね。食用ではないですが、逃亡用にも使えるとか」


 魔物除けの臭いに、爪の跡。

 【トリラテッサ】は魔物に襲われたのか……町の人たちは大丈夫なんだろうな。


『――気配は少ないですが確認できました。町の北側、川の奥地でしょう』


「川の奥に気配があるそうだよ。全員ではないだろうけど、多分……逃げ隠れているんだと思う」


「行ってみましょう。魔物に注意ね、まだいるかもしれないわ」


「ああ」


 俺も【カラドボルグ】を展開する。

 亜獣クラスといえど、戦うにはもう苦労はしないはずだ。

 問題は町の人たちが巻き込まれ無いようにする事と、やりすぎて怖がられないようにする事……だな。

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