10−66【夏の焔3】



◇夏のほむら3◇


 川沿いの町【トリラテッサ】。

 【豊穣の村アイズレーン】跡地から西に進んだ位置にある、市場が盛んな小さな町だ。村が焼け落ち、食料や日用品を買うために一度訪れた事のある俺、ミオ・スクルーズは、この町に住む住人たちが求めている事に気づいていた。

 【トリラテッサ】は場所が悪い。森や山に囲まれているのは【豊穣の村アイズレーン】と同じだが、決定的に違う点がある……それは、魔物が出るという事。


「ふっ!!」


「はぁっ!」


 二振りの聖剣、【クラウソラス】と【アロンダイト】。

 クラウ姉さんとライネによる連携は見事。お互いに役割を完全に把握しているな。


「なんだよ、全然動けるじゃないか」


「……不思議です。あんなにも辛かったのに」


 ライネ本人も不思議そうに、【アロンダイト】の柄を握る手を見詰めていた。


「気負ってたって事じゃないの?」


「あ〜」


 分かる気がする。

 ライネは帝国の貴族なんだよな。それも皇帝陛下に近しい、皇女セリスフィアの側近なんだ。

 この村に残された役割というのを、一番認識していたに違いない。

 それなのに、魔痕まこんと呼ばれるデバフのせいで一歩……いや、二歩も三歩も出遅れたスタートになってしまったんだ。


「そうなんでしょうか」


「そう思っておけばいいさ。セリスはライネを信じていただろうし、あのバカだってそのうち目を覚ますだろ……なにもライネがプレッシャーを感じる必要はないよ」


「そうよ。そのくらいの心構えのほうが、こうして動けるわけだし……まぁフドウ君のようにおちゃらけで何も考えてなさそうなのは、勘弁だけど」


 スクルーズ姉弟は同意見だ。


「あ、あの人は……」


 苦笑いするライネ。仮にも先輩だしな。

 クラウ姉さんは相変わらずユキナリのバカに厳しいな、この前は寝てるあいつになんか悪戯してたけど、あれなに?


「それよりミオ、なんで戦わないのよ?」


 ガッ――!


「痛って!小突くなよっ……なんでって、コレくらいの雑魚なら俺が戦うまでもないだろうし、いじった【クラウソラス】と【アロンダイト】の成果も見たかったしさ……」


「ふーん」


 俺の脇腹をガツガツ小突きながら、クラウ姉さんは【クラウソラス】を顕現けんげんして見せる。

 いつもと同じ……に見えるが実は違う。


「どう?姉さんのご要望は叶えたつもりだよ?」


「まぁ……うん。いいんじゃない?」


 なんで疑問形なんだよ、俺の善意返せよチビ姉!


「私は、凄く使いやすいですよミオ君。斬れ味と強度、それと……」


 ライネは素直で良い子だなぁ。

 視線は、倒した魔物が還った【魔力溜まりゾーン】。

 落ちている素材だ。


「私たちが倒しても、ここまでの品質の素材が落ちるなんて……凄いです」


 それが最大の調整だ。

 一段階、俺が能力を進化させたことで可能になった小技。


「名付けるなら、【強奪ごうだつ】のお裾分け――」


「ダサい、却下」


「ぐっ……」


 相変わらず厳しいなネーミングに。


「そうね……【スキル・アドジャスト】ってところね」


「……分かりやすいけども。俺の意見はガン無視かよ」


「プレゼンが上手ければ採用するわよ?」


「ふふふっ」


 ぐうの音も出ないんだが!?

 だがしかし、この際俺のネーミングセンスはいいとしてだ。

 この【スキル・アドジャスト】……実は【無限むげん】に統合された【ミストルティン】の能力だったりする。


「じゃあそれで。で、クラウ姉さんも【クラウソラス】の魔力消費、抑えられてるんだろ?」


「まぁね。今までの五分の一くらいかしら」


 消費MP五分の一も、中々の強能力だと思うぞ。

 やろうと思えば最小限まで下げることも出来るが、そうすれば成長が見込めなくなるらしい。

 使わなければ成長しないということで、この【スキル・アドジャスト】は土壇場とかで使用することにしている。


「【トリラテッサ】に着くわよ。スカウト相手って、獣人種よね?」


「ん、うん」


 なんだかワクワクしてませんか?

 あーそう言えばこの人、ケモミミ好きな節があったな……クマのオッサンを可愛いとか言ってたし。


「じゃあ手筈通り、そのドロップしたアイテムを土産としようか」


「はい」


 二度目の【トリラテッサ】に入る。

 前回は買い物、今回はスカウト……さて、どう転ぶ。

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