10−65【夏の焔2】



◇夏のほむら2◇


 私とクラウが向かったのは、村の西口。つまり帝国領。

 【豊穣の村アイズレーン】の村人がメインとなって建築を進める地区。

 その入口に……彼がいた。


「――お。来たな」


「お待たせ。予想通り訓練してたわ」


 肩をすくめてクラウが言う。

 言い返せないのだけど……


「はははっ、やっぱか。訓練場を急いで作ってくれって言われた時から、そういうつもりなんだろうなとは思ってたけど、ゆっくり治せよライネ」


 凄く明快そうな笑顔で言われる。

 私の考えバレてるし……


「よっしゃ、揃ったし行こうか」


「ええ」


「え、行くってどこに……私はあのボケナスがいないと――」


 離れられないのに。


「大丈夫、直ぐそこだよ。ライネの体調が悪くなる範囲も調べてあるからさっ」


「ええ!?」


 素直におどろいた。

 いったいいつの間にだろう。


「い、いつなの?」


「――さっきだよ。訓練中かな?」


「そうね。木刀をブンブン振り回してた時間帯ね」


「あ……そう言えば」


 少しだけ目眩がした時があったけど、まさか。


「ユキナリの馬鹿を背負って、【転移てんい】でそこら辺を飛んで回ってたんだよ。でもって【ルーマ】を使って、姉さんにライネの様子を見てもらってた」


 腰につけたポシェットのような道具入れから、小さな水晶体を取り出すミオくん。

 それは私が貸した、通信魔法の道具……【ルーマ】。

 クラウも持っているけど……大きい物を。確かエルフの協力者に借りたのだったかしら。


「で、結果は……“まぁまぁ離れられる”だな。だから目的の場所にも行けるってわけさ……さっきも言ったけど、近いからな。【トリラテッサ】は」


「【トリラテッサ】って……川沿いの?」


「そうね、そこにスカウトに行くんですって」


 スカウト?


「いい人材揃ってるんだよ。だから協力者になってもらおうかなってさっ」


 なんとも簡単に言うけど。

 それだけの自信なのか、それとも無謀なのか……多分前者なんだろう。


「――そろそろこっちも広げないとな」


「え」


 ミオくんが見詰めるのは、私が懸念していた場所。

 帝国領である、この場所だった。


「分かってるさ、ライネの考えくらい。セリスもまだ戻ってこれないんだろ?」


 私はうなづく。


「ならおどろかせようぜ?今度戻ってきた時に、度肝を抜くほど進展させてさ!」


 ヤバい……泣きそうだ。

 この人は、こんなお荷物の私たちの事まで考えてくれていた。

 セリスフィア殿下のご意思に関係なく、ミオ君はきちんと帝国のことも考えてくれている。それこそ王国や公国も、平等に。だからこそ、三国の国境に出来た村と言う事なのね。


「……はいっ!」


 泣きそうな感情を抑えて、私は大きく返事をした。

 この人となら、この人たちとなら、争いのない平和な異世界を作り出せるのかもしない、願わくば私たちも……その一端を担いたいと思った。

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